年上の人がどんなに立派な仕事をしていても、自分の子供の将来の成功を願うものだ。
「お父さん、それはどういう意味?お母さんにお父さんの言ったこと、全部言いつけてやろうか!」井上雨子は不満げに言った。自分のどこが橋本奈奈に劣るというのか。お父さんが奈奈のお父さんを羨むなんて。奈奈は偽物で、ただの計算高い女、演技が上手いだけの見せかけだ。
そんなことをしたければ、とっくに奈奈と親友になっているはずだ。
でも残念ながら、自分は奈奈のように陰険な性格じゃない。素直な性格で、好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。演技なんてできないし、偽善者にもなれない。
「はいはい、怒らないで」井上のお父さんは娘の肩を叩いた。「今どこに行くの?クラスメートはまだ帰ってないみたいだけど」
「ちょっと物を取りに来ただけ。もう行くところ」雨子は怒り気味に言った。本を一冊忘れたことに気付かなければ、橋本東祐が人に囲まれている様子も見なかったし、何より腹立たしいのは、さっきのお父さんの言葉だった。