第277章 本当に拾ってきたわけじゃない

昨日、井上雨子の話を白洲隆も聞いていた。

井上雨子の突然の暴露がなければ、白洲隆は知らなかっただろう。自分がまだ橋本奈奈という隣席の存在に気づく前に、奈奈さんがそんな不遇な日々を過ごしていたことを。

何不自由なく育った白洲隆には信じられなかった。もう21世紀になろうとしているのに、新しい服すら着られず、実の姉の古着を着るしかない人がいるなんて。本当に家計が苦しければ、姉妹の待遇は似たようなものになるはずで、生活は貧しくとも心は温かいはずだ。

しかし白洲隆は誰よりもよく知っていた。橋本家の暮らしがそれほど困窮しているはずがないことを。

もし橋本家が本当にそんなに困っているなら、十万円も出して橋本絵里子を付属高校に入れることなどできないはずだ。これは明らかに、家庭の苦労を全て奈奈さん一人に押し付けているのだ!

以前の橋本家の両親は、どちらもろくでもない人間だったが、今では橋本おじさんはまだしも変わったが、奈奈さんの母親は本当にひどすぎて言葉もない。

白洲隆はもう覚えていないくらいだが、幼い頃から母親がいないことで不機嫌になったり、すねたり、悲しい思いをしたりしていた。でも伊藤佳代のような母親がこの世にいることを知ってからは、白洲隆はよく自分を慰めた。母親がいなくても、奈奈さんのように伊藤佳代のような母親がいるよりはましだと。

奈奈さんと比べたら、自分は何百倍も何千倍も幸せなのだ。

「話を戻すけど、本題に入りましょう。それと、そんな哀れみの目で見ないでください。私は路傍の猫や犬じゃないし、母がいなくても生きていけないような、誰かの同情を必要とする存在でもありません」と橋本奈奈は冷静に言った。

「あなたのお母さんは直接は何も言わなかったけど、間接的にこんなことを言いたかったんでしょう:まず、あなたは母親を恥じて、学校の保護者会には父親だけを参加させて、母親には来させない。母親が小さい頃に学校に行けなかったせいで字もろくに読めないから、学校で恥をかかせたくないからだと。次に、あなたは策略家で、父親と母親の関係を引き裂いて、自分の学校に通う機会を得ようとしている。家庭の状況や条件など全く考えていない。それだけでなく、家計が苦しいのを知りながら、厚かましくも父親に学校の近くに部屋を借りさせて、通学を便利にして、道中の時間を少しでも節約しようとしている」