「あなた……」橋本絵里子は歯を食いしばり、怒りで言葉を失った。
もし橋本奈奈がまだ橋本絵里子と対峙する気があれば、橋本絵里子は奈奈を説得して、橋本東祐に全てが誤解だと分からせる自信があった。しかし今や橋本奈奈は橋本絵里子と道理を語ることさえ拒み、面と向かって是非を論じることもせず、橋本絵里子に全ての責任を押し付けている。これでは橋本絵里子がどんなに多くの対処法を持っていても、それを実行する余地はなかった。
「何も言わないなら部屋に入りなさい」橋本奈奈は冷ややかに橋本絵里子を一瞥した。前世では橋本絵里子に一生道理を説かれ、一生損をさせられた。今世では、もう橋本絵里子と「道理」を語るつもりはない。そんなことをしたら、自分はただの馬鹿になってしまう!
「奈奈、絵里子とどんな話をしていたの?部屋に入ったばかりだけど、寒くない?」橋本奈奈が懐かしくも見知らぬ家に入るや否や、橋本東祐は彼女の手に温かいお茶を握らせた。
伊藤佳代はにこにこと頷いた。「姉妹二人は幼い頃から一緒に育って、仲が良いのよ。こんなに長く離れていたんだから、きっと分かち合いたい秘密がたくさんあるわ。本当なら、二人は何か話したいことがあれば、いつでも話せるはずなのに、この姉妹を苦しめてしまったわね」
橋本東祐は伊藤佳代の含みのある言葉を無視し、橋本奈奈を座らせた。「お姉ちゃんとどんな話をしていたの?」
「お姉ちゃんと話すことなんてないわ。さっき玄関で、お母さんにぶつかられて、転びそうになって、滑っただけよ。だから部屋に入るのが遅くなったの」橋本奈奈は座ってから、まず口角を引き上げて橋本絵里子を一瞥し、それからこの事実を述べた。
「怪我はないか?」橋本東祐は心配そうに、橋本奈奈を見回しながら、伊藤佳代に厳しい視線を向けた。
「大丈夫です!私が奈奈を支えました」橋本絵里子は慌てて説明した。
「そうか?」だから奈奈と絵里子の入室が遅かったのか。
「うん、支えてもらったから転ばなかったわ。ただ足を少し捻ったかもしれないけど、大して痛くないし、少し休めば大丈夫」橋本奈奈は伊藤佳代の怒った表情や非難の眼差しを無視した。
この言葉で彼女が伝えたかったのは、たった一つのこと。橋本絵里子がどんな手段を使おうと、彼女を懐柔しようとしても、絶対に無理だということだ!