第314章 父子の寵愛争い(加更)

「奈奈?」橋本東祐は静かに呼びかけ、目配せで橋本奈奈に合図を送った。この状況で橋本奈奈は本当に何も言わないのだろうか。結局、白洲隆は彼女の言うことをよく聞くのに。

橋本東祐だけでなく、白洲おじいさんまでも期待の眼差しを橋本奈奈に向けていた。

白洲成木は冷たく、白洲隆は頑固で、父子二人とも同じように強情な性格だった。

これまで、この父子が対立すると、白洲おじいさんは息子にも孫にも手を焼いていた。

しかし今は違う。孫は父親との関係が以前より良くなったようで、孫にも大切な人ができたようだ。

そのため、白洲おじいさん自身が為す術もないこの状況で、真っ先に思い浮かべたのが橋本奈奈だった。

「お父さん、心配しないで。二人が喧嘩するのは良いことよ。黙っているほうが問題。喧嘩することで絆が深まるの。ついでに、白洲隆も白洲おじさんから戦略と戦術について学べるわ」と橋本奈奈はゆっくりと話し、目は本から離れず、その夢中な様子は目が飛び出して本に張り付いてしまいそうなほどだった。

この本は絶版品で、本好きの橋本奈奈にとっては、金や銀や紙幣よりも好ましいものだった。

前世で、橋本奈奈はこの本を探すのに相当な苦労をし、やっと見つけたものの、絶版で増刷もないため、とんでもない高値がついていた。

橋本奈奈が初めて自分のために高価なものを買おうと思い、やっとお金を貯めたのに、あっという間に伊藤佳代に全部持っていかれてしまった。

今世ではこの時期、この本はかなり入手困難になっていたが、前世で橋本奈奈が欲しがっていた時ほどの困難さや高値ではなかった。

「奈奈、そんなことを言っちゃダメよ。喧嘩が良いなんてことないわ」と橋本絵里子は優しく穏やかな声で言った。「隆、そんな態度はよくないわ。白洲おじさんに失礼よ。たかが一冊の本じゃない。本当に欲しいなら、奈奈、本を隆にあげたら?次の機会にまた買えるように考えましょう?」

橋本奈奈が不躾であればあるほど、彼女は自分の思いやりと寛容さ、優しさと分別を示そうとした。

彼女には理解できなかった。橋本奈奈はこんなに口が悪いのに、白洲隆が彼女を好きなのはまだしも、なぜ白洲おじさんまでも橋本奈奈にだけ優しく、自分のことは一度も真面目に見てくれないのか。