彼女は斎藤昇が斎藤輝彦と同じ道を歩んで一生苦しむことは望んでいなかったが、岡本茜以外にも、息子に良い娘を紹介することはできるはずだった。
息子はあれほど優秀なのだから、岡本茜が結婚を急ぐのなら、それは岡本茜の損失だ。彼女は断言できる。息子が結婚したいと思えば、世の中には喜んで嫁ぐ良い娘がたくさんいる。何を焦る必要があるのか?
岡本茜が人気があるなら、息子だって引く手数多ではないか?
そう考えが整理できると、野村涼子は気持ちよく背もたれに寄りかかった。「お腹が空いたわ。何か食べるものある?早く出してちょうだい」
橋本奈奈は首を上に向け、手で首を支えながら、ますます憂鬱になっていった。
この野村おばさんは一体何なのだろう。心理カウンセラーのように質問を山ほどした後で、報酬も払わず、今度は食事の世話までさせようとしている。これは野村おばさんの息子を誘惑した報いなのだろうか?
たった一時間前に人の息子を誘惑することに頷いたばかりなのに、この報いは来るのが早すぎではないか?
橋本奈奈は密かに深呼吸をして、仕方なく野村涼子の世話を続けた。
「お粥しかないの?」野村涼子は口を尖らせ、不満そうな表情を浮かべた。
「野村おばさん、斎藤家には何でもあるはずですから、運転手さんに送ってもらって、好きなものを食べに帰られては?」
「まあいいわ、郷に入っては郷に従えってね。お粥でもお粥で」野村涼子は橋本奈奈から白いお粥を受け取って飲み始めた。お粥は少し薄めだったが、とても濃厚で、特に上層の米のとろみのある部分を飲むと、胃に優しくて心地よかった。「まあまあね」
「ふふ」もちろんまあまあよ。これは斎藤お兄さんの腕前なのに、野村おばさんは自分の息子が作ったとは気付かないのね?
橋本奈奈は知らなかったが、斎藤家全体で、斎藤花子が一度高熱で病気になった時に斎藤昇の作ったお粥を食べた以外は、斎藤旦那様でさえこの幸運に恵まれたことがなく、まして斎藤輝彦と野村涼子に至っては言うまでもなかった。
息子の料理の味を知るどころか、斎藤昇が料理を作れることすら、野村涼子は知らなかった。