「もういいよ、行こう」斎藤昇は立ち上がると、彼のズボンはピンと伸び、しわひとつなく、まるで洗濯してアイロンをかけたばかりのようだった。
斎藤昇の言葉は重くなかったが、その言葉には人を従わせる力があった。
白洲隆は歯ぎしりをした。今日一日は橋本絵里子と大野宏に台無しにされた。大野宏のことは、後でゆっくり仕返しができる。橋本絵里子については、弱みを握られないようにしないと。そうでなければ、絶対に橋本絵里子を潰してやる。みんな一体何なんだ!
「奈奈さん、じゃあ先に帰るよ。橋本おじさんまだ帰ってないけど、一人で大丈夫?」
「私を三歳児扱いしないでよ。自分のことを心配しなさいよ。私がいないと、大野宏に言葉巧みに操られて、五千円みたいになっちゃうじゃない。あなたの方が大野宏より年上なのに、この一、二年の付き合いが無駄になっちゃうわよ。年下に出し抜かれて、恥ずかしくないの?そんなに食べてるんだから、背と筋肉だけじゃなくて、少しは頭と知恵も使いなさいよ!」
橋本奈奈は心配そうに言った。今日は彼女と斎藤お兄さんが白洲隆を助けていなかったら。
そうでなければ、白洲隆のこの間抜けな様子で、大野宏に勝てるなんて思えない。大野宏は一体何を食べて育ったのか、ずる賢すぎる。白洲隆に足りない知恵が全部大野宏に行ってしまったんじゃないかと疑うほどだ。
「奈奈さん、人を見下すなよ。待ってろよ、俺は前は油断してただけだ。あいつがこんなに悪い奴だとは知らなかった。親戚じゃなくて良かった、あいつの母さんが俺の叔母さんなのに。もう警戒してるから、これからはあいつに出し抜かれないし、一言も信用しないからな!今じゃ白洲家では、あいつがいれば俺はいないし、俺がいればあいつはいない状態になってる。そう長くないうちに、必ず大野家が白洲家から得をする方法を見つけてやる。得しようとして俺に手を出すなんて、みんな恩知らずの白眼狼だ!」白洲隆は義憤に燃えていた。
実は前回橋本奈奈に諭されてから、白洲隆は既に大野家に対抗する心を持っていた。
大野宏がどんなに悪くて、どんなに策略を巡らせても、所詮は子供だ。誰かが教えていなければ、大野宏がこんなことを考えつき、こんなに多くの悪事を働くとは信じられない。つまり、大野家の大人たちが相当関わっているに違いない。