「お、お前は私と絵里子の人生を台無しにした!」
初めて橋本東祐に殴られた橋本絵里子は、殴られた左頬を押さえ、唇を噛みしめ、泣きながらも一言も発しなかった。
「いや、まだお前たちの人生を台無しにしてはいない。お前たちにはまだ半生あって、お前たちを助けてくれる男を見つけることができる」橋本東祐の低くくぐもった声が聞こえた。「俺たちは半年近く別居している。あと一年ほどで離婚できるだろう。その時、お前は絵里子に彼女の望む父親を、お前の望む男を見つけることができる。お前たち母娘は、どちらも腹黒くて、嘘ばかりつく。どれが本当でどれが嘘か分からない。お前たちは能力があるんだから、自分たちで何とかしろ。これからは、俺に頼ってくるな」
先ほど何度も橋本絵里子に本当にそんなことがあったのかと尋ねたが、絵里子はそれを否定したことを思い出すと、橋本東祐は十二月の凍った湖に落ちたかのように、骨の髄まで冷え切った気分になった。