013 また恥ずかしながら心を奪われた

鐘見寧は彼の「賀川さん」という呼び方に顔を赤らめた。

賀川礼は去る前に、彼女にもう一言言った。「孤児院のことは、鈴木最上に任せておきます。」

鐘見寧は呆然とした。

まだ自分から彼にこの件について話していなかったのに。

その後、彼女は佐藤ママについて二階の寝室に入った。

別荘全体の内装は黒、白、グレーを基調としており、寝室も冷たく寂しい雰囲気で、見ていて特に重苦しく感じられた。まるで賀川礼という人物そのもののように、人に強い圧迫感を与えていた。

「洗面用具は全て揃っています。お着替えも用意させていただきましたが、サイズが合うかどうか分かりません。何かございましたら、いつでもおっしゃってください。」

鐘見寧は部屋の中で呆然と立ち尽くし、困惑の表情を浮かべていた。

一体どうしてこんな展開になってしまったのだろう?

たった一時間で、

彼女は……

既婚者になってしまった?

それも賀川礼と?

この話を誰かに言っても、きっと信じてもらえないだろう。

鐘見寧は簡単にシャワーを浴び、出てきたらベッドサイドにアロマオイルが焚かれているのに気付いた。白檀と杉の香り、木の温もりと杉の清涼感が混ざり合い、まるで森の中にいるかのようだった。

温かい水と風邪予防の薬が置いてあった。

外では雨が止まず、見知らぬ環境で緊張して眠れないはずだったのに、布団に包まれると不思議と安心感を覚えた。

うとうとする中で、彼女は孤児院での日々を夢見た。鐘見肇夫妻に引き取られた時、彼女は嬉しかったし、仲間たちは羨ましがっていた……

しかし鐘見家での日々は、まるで薄氷を踏むようだった。

夜半は落ち着かず、寝返りを打ち続け、夜明け近くになってようやく眠りについた。

——

一方、書斎では

賀川礼は一睡もしていなかった。

鈴木最上はもう眠くて死にそうだったが、ある方は少しも眠気を見せず、鐘見寧が寝てからは狂ったように仕事モードに入り、まるで興奮剤でも打ったかのようだった。

夜が明けかけるまで、ようやく書類を片付け、脇に置いてある結婚契約書に目を向けた。

「旦那様、少しは休まれたほうが。」鈴木最上はもう持ちこたえられなかった。「ここ数日ろくに休んでいませんよ。このままでは体が持ちません。」

鐘見家の別荘区の近くでどれだけ待ち続けたか、誰も知らない。