賀川野は元々恐れを知らなかった。
両親も一緒にいて、後ろ盾があるから、さらに大胆になっていた。
「前回、兄さんの懲らしめが足りなかったみたいね。まだ顔を出すなんて、厚かましいわ」
「私だったら、とっくに穴があったら入りたいところよ。やっぱり私は恥ずかしがり屋すぎるのかしら」
梁井佳音は息子を見て、「もういいわ、野。ここは公の場だから、相手の面子も立てなさい。話があるなら、別の場所でゆっくりしましょう」
鐘見月は、こんな展開になるとは思わなかった。
鐘见寧のことを一言言っただけで、立て続けに侮辱された。
彼女が言い放った言葉さえ、そのまま返されてしまった。
一行はホテルの近くにある茶室の個室に入り、賀川野はその隙に抜け出して兄に連絡した:「もしもし、兄さん、緊急事態だよ、早く戻って!」
「親に叩かれたのか?」賀川礼は口角を上げた。
「鐘見家の連中がホテルに押しかけてきたんだ。まるで犬みたいだよ。両親が着いたとたん、嗅ぎつけて来やがった」
「分かった、何かあったら即連絡しろ」
電話が切れると、鈴木最上は声を整えて言った:「鐘見家の...あの次男が帰国したそうだ」
賀川礼は黙ったまま、窓の外を見つめ、その瞳に浮かぶ感情は読み取れなかった。
——
茶室の個室にて
賀川野が個室に戻ると、お茶はすでに用意されており、両家は離れて座っていた。彼は鐘見家の息子を観察したが、鐘見肇夫妻とはあまり似ていなかった。
病的なほど白い肌に、黒髪が眉にかかり、物憂げな眼差し。
彼は心の中で舌打ちした:
心身ともに健康とは言えない様子だ。
自分のような明るく活発な性格とは大違いだ!
「鐘見さんは、私と何を話したいのですか?」
賀川博堂は茶碗の蓋を持ち上げ、茶の表面に浮かぶ茶かすを払った。
「あなたが今回青水市に来られた理由は分かっています」鐘見肇は鐘见寧を見て、「寧は賀川さんと長い付き合いですし、噂も色々と立っていて、あまり良くない話ばかりです」
「ですが、賀川さんが彼女を本当に好きだということは分かります。何度も彼女を守ってくださいましたから」
「ある事は、家の恥で、本来話したくないのですが...」
賀川野は牛が水を飲むように茶を一口飲んで、「話したくないなら、黙ってればいいじゃないか」