110 私と一緒に帝都に住まないか?

賀川礼は正装を着て、スーツを腕にかけ、白いシャツが引き締まった腰にぴったりと収まり、冷たい眉目は極めて攻撃的だった。

高橋院長は慌てて杯を置いて立ち上がった。「賀川さん」

「こちらは孤児院の高橋院長です」と鐘見寧が紹介した。「私に会いに来てくれたんです」

「ご丁寧に。どうぞお座りください、緊張なさらずに」

彼はゆっくりとした口調で言った。

彼女に視線を向けた時、見下ろすような審査的な目つきで、頭皮がぴりぴりするような感覚だったが、鐘見寧を見る時は一転して優しい表情になった。

賀川礼がいると、会話は常に緊張感が漂う。高橋院長は穏やかに笑って「今年も賀川さんには多大なご寄付をいただき、ありがとうございました」

彼女が言及したのは、もちろん寄付のことだった。

「あれは全て寧ちゃんからの寄付です。私とは関係ありません」

鈴木最上が寄付に行った時、寄付者名は鐘見寧となっていたが、誰もが知っていた。この資金は賀川礼が出したものだと。

しかし彼の言葉は、孤児院の件に関わりたくないという意思を示しているようだった。

高橋院長は苦笑いを浮かべ、賀川礼の視線に頭皮がぞわぞわした。

彼女が手を上げて鬢の髪を整えた時、袖が上がり碧玉環が見えた。

賀川礼は一瞥して、平淡な声で言った。「高橋院長の腕輪...なかなかいいものですね」

鐘見寧はそこで初めて高橋院長が碧玉環をしているのに気付いた。

彼女の印象では、アクセサリーなどつけない質素な人だった。

結局、子供の世話をするのに、孤児院には生後数ヶ月で捨てられた子供も多く、アクセサリーは不便だったはずだ。

高橋院長の目に一瞬の動揺が走ったが、表情は変わらなかった。

落ち着いた様子で、軽く笑って「これは息子の嫁が旅行先で騙されて買ったものです。数百元の安物で、おそらくガラス製です。子供の気持ちですから断れなくて、服装の合わせに着けているだけです」

「良く見えるとおっしゃいましたか?」

「もしかしたら彼女は偶然にも掘り出し物を見つけたのかもしれませんね?私にはよく分かりませんが」

「息子さんはご結婚されたんですか?」鐘見寧は彼女に一男一女がいることを知っていた。

高橋院長は微笑んで「結婚して3、4年になります。2年前に孫も生まれました」

「おめでとうございます。知りませんでした」鐘見寧は淡く笑った。