秋になって気温は数度下がったものの、蒸し暑さは変わらなかった。
賀川礼は冷酷だが、何も分からない子供を困らせるようなことはしない。
「彼女は、あなたに会えないなら帰らないと言っています。」
「佐藤ママに香房に連れてきてもらいましょう。」
鐘見寧は子供の前で彼女と話をしたくなかった。
高橋院長は親族という餌を投げかければ、鐘見寧が自ら会いに来ると思っていたが、一晩待っても姿を見せないため、慌てて人を通じて、息子の嫁に連絡を取らせた。
彼女の息子の嫁は二十六、七歳くらいで、家で何か起きたのか、身なりを整える暇もなく、疲れた様子で、目は真っ赤だった。
香房に入るなり、彼女は突然鐘見寧の前に跪いた。
涙が一気に流れ落ちた。
悲しげな様子で、とても哀れに見えた。
鐘見寧はただ冷たく一瞥しただけで、何も言わなかった。