105 賀川さんは、家族として来た

遠くの空の果てに、月が流れる雲の下に隠れ、淡い光を放っていた。

南方に台風があり、その影響で、天気予報によると青水市では近日中に雨が降るとのことだった。鈴木最上は車を運転しながら、渋滞の合間に後部座席の人を振り返って見た。

賀川礼は椅子の背もたれに寄りかかり、目を閉じて休んでいた。

「旦那様、会場まであと40分くらいかかりそうです。奥様の試合に間に合うかどうか…」

「彼女は何番目だ?」

「全部で30人ですが、まだ抽選が終わっていません」

木村海から連絡があれば、すぐに知らせてくれるはずだった。

賀川礼は最近数日分の仕事を圧縮して、少し過負荷気味で、機嫌も悪く、鈴木最上は毎日びくびくしていた。

社長の機嫌を損ねて中秋節のボーナスが飛んでしまうのではないかと心配だった。

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その時、競技会場では、選手たちがバックステージで抽選を待っていた。鐘见寧が来るのを見て、皆敵意と不快感に満ちた目で見つめていた。

結局、彼女だけが専用の化粧室を持っていたのだから。

この件について、鐘见寧は知らなかった。会場に着くとすぐに化粧室に案内され、後になってそれが彼女専用だと知ったのだ。

主催者側は賀川礼の機嫌を取ろうとしたのだ。

そのせいで鐘见寧は多くの非難を浴びることになった。

「今回の大会も、私たちは引き立て役ね。優勝者はもう決まってるんでしょ」

「あの人は私たちより後ろ盾があるからね」

「彼女はもともとダンスが上手いし、実力もあるわ」

「彼女の年齢で、もう何年も大会に出てないし、足も怪我してるのに、実力があっても、どれだけ発揮できるの?大会がもう始まるのに、あの人はまだ来てないわ。きっと来ないんでしょ」

……

「大会なのにボディーガードを連れてくるなんて、本当に自分を偉い人だと思ってるのね」

その人が言い終わるや否や、鐘见寧はまっすぐにその人を見つめた。

視線は真っ直ぐで、逃げることも避けることもなく、むしろ皮肉っぽく言った選手の方が少し気まずそうだった。

「私が数年前に大会に出た時、あなたもいましたよね。これだけ長い間、青水市のバレエ界で足踏みしているのは、国際大会に出たくないからですか?それとも実力が足りないからですか?」

「鐘见寧、何が言いたいの!」その人は即座に怒り出した。「私のことは、あなたに関係ないでしょ!」