白露が空を温め、白い月が天を流れる。
賀川野は月を見上げ、兄の方をちらりと見た。兄は少し俯いていて、何を考えているのかわからないが、口元には抑えきれない笑みがあった。
彼は背筋が寒くなるのを感じた。
「兄さん...」賀川野は探るように声をかけた。「宿題があるんです。」
「宿題?」
「先生がレポートを出すように言ったんです。部屋に戻ってもいいですか。」賀川野は嘘をつき始めた。「あの先生、すごく厳しいんです。」
賀川礼は頷いた。
兄の許可を得て、賀川野は心の中で喜びが溢れた。
表面は落ち着いていて、わざとらしく「月見も一緒にしたかったんですが、先生が急いでいるので。」と言った。
「さっき何か聞こえたか?」賀川礼は彼の方を向いて、審査するような目で見た。その視線に彼は背筋が凍る思いをした。
「何も聞こえませんでした。」
「本当か?」賀川礼は疑わしげな目で見た。
「遠くにいたので、本当に一言も聞こえませんでした。誓います。もし嘘をついていたら...一生お金持ちになれなくなって、一度の出産で八人の息子を産むことになりますように。」
賀川礼は頭が痛くなった。そもそもお前に産めるわけないだろう。
しかし賀川野が嘘をついているのは見抜けた。手を振って、さっさと消えろと言った。
賀川野は大赦を得たかのように。
しかし、
振り向くと、
賀川博堂がいつの間にか後ろに立っていて、彼との距離は1メートルほどだった。
黒い影に、魂が飛び出すほど驚いた。
「お父さん!」賀川野は息を切らして、「足音がしないなんて、びっくりしました。まずい、おじいちゃんのところに救心丸をもらいに行かないと。」
賀川野はそう言って、急いで立ち去った。
賀川博堂は彼が座っていた場所に座り、月を見上げて「あの娘とどうしたんだ?」
「何でもありません。」
「おじいちゃんとおばあちゃんが言うには、仕事から帰ってきてから落ち着かない様子だったそうだ。お前らしくない。心配していたよ。」賀川博堂は両親からの依頼を受けていた。
賀川礼が会社を引き継いでから、賀川様はずっと彼に教えていた。喜怒哀楽を表に出さないこと、特に交渉の場で、競争相手の前では、本当の感情を悟られないようにと。
だから、こんなに感情を表に出すのは久しぶりだった。