その夜は、月も出ない暗い夜で、風が強く吹いていた。
江口晗奈は賀川野を一瞥し、多くを語らず、ただ一言だけ注意した。「あなた、あとで余計な口を出さないで」
「分かってます。自分を唖だと思って黙ってます」
賀川野は嬉しそうに車を降り、まるで膏薬のように鐘见寧の側にくっついて、声を潜めて「お義姉さん」と呼びかけた。「私たち、これからどこに行くんですか?誰の家がここにあるんですか?」
「知らないの?」鐘见寧は眉をひそめた。
江口晗奈は前を歩き、彼らと少し距離を置いていた。
賀川凌介は鐘见寧のもう一方の側を歩きながら、同じように好奇心を抱いていた。
「従兄、知ってるの?」賀川野が尋ねた。
賀川凌介は首を振った。
「じゃあ、二人とも今夜何しに来たの?」鐘见寧は頭が痛くなってきた。