一瞬にして、酸素が薄くなり、江口晗奈は喉が渇いて締め付けられるような感覚に襲われた。
目の前の茶色い子犬は彼女をじっと見つめ、笑うと目尻が少し上がり、瞳の中の光は濃く熱く、視線が合った瞬間、人を焼き尽くすようだった。
江口晗奈は不思議と胸が高鳴った。
胸の中が、かすかにむずがゆい。
正直に言えば、少し心が揺れた。
彼女は内心で歯を食いしばった:
この何年もの間、あなたに告白した人は数え切れないほどいた。彼に何がいいの?ただ見た目がいいだけじゃない。晗奈よ、男の色気に惑わされてはいけない、自制して、冷静になって!
彼女の手は依然として彼に握られたまま、子犬は彼女の前に立ち、優しく尋ねた:
「僕...」
「抱きしめてもいい?」
普段なら、彼女に無礼を働く者はいなかった。普通の告白相手なら、断られたら二度と近づく勇気もないのに、彼は違った。言葉を発した後、彼女が断る機会も与えず、一歩前に出て、両手で彼女を抱きしめた。
木村海は呆然とした:
二人は食事をするんじゃなかったの?
これは一体何をしているんだ!
彼の体からは清々しく爽やかな香りがして、全身が温かかった。
手は彼女の背中に置かれ、軽く二回叩いた。その動作は優しく慎重で、まるで慰めるかのようだった。庭園で長時間座っていた江口晗奈は、まるで...
壊れそうに見えた!
「私が誰か知ってるの?」江口晗奈は身を引いて彼を見た。
「重要ですか?」
「重要じゃないの?」
「僕があなたを好きだということの方が重要です。」
「...」
江口晗奈は認めざるを得なかった。この子犬は、言葉が上手い。
やはり、見た目で人を判断してはいけない。
自分は以前、彼を見くびっていた。
この時、外で見張っていた木村海こそが本当に壊れそうだった。この素性の分からない男が、従姉妹が怪我で入院していることを知っているなんて、ただ者ではないに違いない。
江口晗奈の怪我の件は、とても厳重に隠されていて、岸許大婆様でさえ知らなかった...
もし大婆様が、彼女が夜中に路上で男を拾ったことを知ったら、どう思うか想像もつかない。
彼がそう考えていると、視界の端に遠くから急いでやってくる人影が見えた。
目を上げると、
驚きで死にそうになった。