彼は白いシャツと黒いズボンを着て、黒いジャケットを羽織っていた。照明が彼の肩に落ちて、銀白の月光を纏っているようだった。
いつ来たのかわからないが、長い間そこに立っていたようだ。いつもの温かく情熱的な様子とは違い、言い表せない冷たい気品があった。手には黒いバッグを持っていたが、中身は分からなかった。
江口晗奈は眉をしかめた。
なぜ彼が?
彼女は目を離さずに彼を見つめ続けた。彼が目の前まで来て、笑いかけた。「どうした?私が分からないのか?」
「なぜここにいるの?」
「友人のお見舞いだ。偶然君に会えた。暗くて、目の錯覚かと思ったよ」子犬は彼女を見つめた。「具合が悪いのか?」
彼女はまだ病衣を着ていた。
「少し怪我をしただけ。入院する必要もなかったのに」
「病室まで送ろうか?」
江口晗奈は断らなかった。今は一人でいるのが辛かった。エレベーターを待っている間、子犬は自分のジャケットを脱いで彼女に掛けた。
見知らぬ香りが瞬く間に彼女を包み込んだ。
衣服に残る温もりが、彼女の全身を包み込んだ。
その暖かさが、冷え切った彼女の体を少しずつ温めていった。
江口晗奈は黙ったまま、目の前の男性を見つめていた。彼は身を屈めて、丁寧に優しく彼女の服を整えていた。
彼女は同年代の中でほとんど姉的な存在で、大抵は彼女が人の面倒を見る立場だった。性格が強いため、他人からの積極的な気遣いを受けることは少なかった。
実は、人に世話をされる感覚は……
なんだか不思議だった。
主に、彼が綺麗な顔立ちをしているからだ。
見ているだけで心が和み、気分も少し良くなるようだった。
——
その時、病室では
木村海は落ち着かない様子で、江口晗奈の身を案じながらも、心に秘めた多くの事情があり、躊躇いながら鈴木最上に電話をかけた。
「おや、今日はどんな風が吹いたんだ?海兄が私に電話をくれるなんて?」
「どこにいる?」
「家だよ」
「話があるんだ」
「言ってみろ」
「ある夜、従姉妹が酔っ払って、私が迎えに行ったんだ……」
鈴木最上は珍しく暇で、鐘见寧からもらった線香を立て、お茶を入れて、情操を養おうとくつろいでいた。「続けて」
「その日、彼女が道端で男を拾ってきたんだ。今回の黒幕は、その男じゃないかと疑っている」
「証拠は?」