江口晗奈は今夜の樱庭司真がいつもと違うと感じた。おそらく初めて彼がこんなにフォーマルな服装をしているのを見たからだ。普段の従順な様子とは違い、むしろ成熟したエリート的な雰囲気を醸し出していた。
ただし、彼女を見つめるその瞳は、相変わらず子犬のように潤んでいた。
「樱庭先生と呼ぶべき?それとも樱庭若様?」ベッドに座った江口晗奈は、目の前の人を見つめた。
樱庭司真は一瞬固まった。
視線が交わり、彼は彼女をじっと見つめた。その眼差しは……
とても切なげだった。
江口晗奈は彼のそんな表情に耐えられなかった。
時々ベッドの上で、彼はこんな風に、小声で彼女のことを「お姉さん」と呼び、自分を情欲の渦に引きずり込み、共に溺れていくのだった。
彼女が視線を逸らすと、樱庭司真は苦笑いしながら言った。「もう僕のことを見たくないの?」