おばあさんの右手の薬指には、シンプルな金の指輪がはめられていた。
デザインと摩耗具合から見て、かなり古いものだと分かった。
「この指輪が気に入ったの?」おばあさんが突然口を開いた。
鐘见寧は一瞬戸惑い、他人の持ち物をじっと見るのは失礼だと思い、照れ笑いを浮かべた。
「デザインが特別だなと思って」
「そうでしょうね。これは何十年も前のデザインだから、今じゃもう見かけないわ」
「古いデザインだと分かりますが、とても素敵です」
「これは私の結婚指輪よ。50年以上つけているの」
「おじいさまとの仲が良かったんですね」
「まあまあね」おばあさんは言いながら、彼女の薬指の指輪を見た。「今の指輪みたいに精巧で綺麗じゃないわ。あなたの指輪は素敵ね。見せてもらえるかしら?」
鐘见寧は頷いた。
指輪を外して渡した。
おばあさんが指輪を受け取ろうとした時、膝の上に置いてあった診察券入れが滑り落ち、中身が床に散らばった。彼女が身を屈めようとすると、鐘见寧は「動かないでください。私が拾います」と言った。
「あなたの足、具合が悪そうね」
「大丈夫です。ものを拾うくらい」
鐘见寧は、おばあさんの杖が特別なものだと気づいていた。伸縮可能で折りたたみ式のようで、ボタンなどの装置もついていた。第一印象では、白杖に似ていた。
しかし、このおばあさんの視力は正常に見えた。
おばあさんは指輪を見てから返し、「あなたの足はどうしたの?」と尋ねた。
「ちょっとした怪我で、小さな手術をしました。おばあさまは病院に...」
「健康診断よ」
「お一人でいらしたんですか?ご家族は?」
「うちの爺さんが支払いに行ってるのよ」
鐘见寧は頷き、おばあさんの次の質問を聞いた。
「その指輪、ペアリングね」
鐘见寧は整理した診察券を渡しながら、「はい、結婚してます」と答えた。
「とても素敵な指輪ね」
「ありがとうございます。デザイナーが優秀なんです」
おばあさんは微笑むだけだった。「今時の若い人は結婚したがらないのに。うちの孫なんて、お見合いにも行きたがらないのよ。あなたは早く結婚したのね」
「運命の人に出会えたんです」
「あなたの話し方を見ていると、パートナーとの関係は良好そうね」
「とても良くしてくれます」