鐘见寧は彼女を見て、心臓が一瞬止まりそうになった。
本来なら盛山家から線香を取ってくるはずだったのに、噂話に夢中になって本題を忘れてしまい、今、お客様が来られて、とても申し訳なく感じた。
「大変申し訳ございません。まだ品物を取りに行けていなくて。」
「では、また改めて伺います。」
「本当に申し訳ございません。」
「私が急ぎすぎたんです。」
「申し訳ありません。お茶でも召し上がってからお帰りください。」鐘见寧が熱心に勧めたので、彼女はようやく腰を下ろした。
「お姉さん、あの人は誰?」秋月策人が内緒で尋ねた。
「私のお客様よ。」
「彼氏いるの?」
「ここは香を売る店であって、結婚相談所じゃないわ。お客様のプライベートには立ち入らないの。」鐘见寧は小さく笑って、「気に入ったの?」
「一目惚れです。」
「……」
鐘见寧は彼の戯言を信じなかった。この秋月策人は賀川野と同じで、いつも冗談ばかり言っている。
すぐに警告した。「私のお客様に近づかないで。」
秋月策人は口だけで、連絡先を聞きに行くこともなく、賀川野と一緒に別の席に座って感心していた。
同じ二つの目と一つの口なのに、どうしてあんなに綺麗な人がいるんだろう。
鐘见寧は彼女にお茶を勧めながら、内緒で賀川洵に来られないか尋ねた。
「叔父さん、早く来て、美人がいるよ。」賀川野が携帯に向かって言った。
賀川洵は眉間を揉んだ。
まさか……
おじいさんが仕組んだ別タイプのお見合いか。
「用事があるから、行けない。」
「叔父さん、来ないと後悔するよ。」賀川野が軽く鼻を鳴らした。
「安心して、私は自分のしたことを後悔したことはない。」
賀川野は口を尖らせ、電話を切った後、つぶやいた。「後悔なんてしないって、追妻火葬場の人は誰だったっけ?」
「追妻火葬場?何かゴシップある?」秋月策人がすぐに寄ってきた。
彼にとって、ゴシップは美人を見るより面白い。
特に叔父さんのゴシップなら。
——
しかし賀川洵は本当に行く暇がなかった。
施工業者から盛山家旧邸の工事を数日中止する必要があるという連絡を受け、何か問題が起きたのかと思い、仕事が終わった後、状況を確認しに行った。
祝日でもないのに、盛山家は提灯を飾り、とても賑やかだった。