夕日が西に沈み、空は霞んでいた。
湯川俊夫が先ほど設置した撮影機材を片付けていると、賀川野が急いで手伝いに行き、木村海も傍らで他の物を整理していた。彼は菅野望月を見て、見知らぬ人だったため眉をひそめた。
「おじさん、この方は兄の後輩で、インテリアデザイナーの菅野望月さんです」と盛山文音が紹介した。
「湯川さん、お名前は存じ上げております」
菅野望月は率先して手を差し出した。
湯川俊夫はデザイナーではないが、業界では有名だった。
なぜなら……
性格が十分に悪いからだ!
「こんにちは」湯川俊夫は甥の後輩と聞いて、丁寧に応じた。
彼は盛山文音を見て、「今晩、盛山家で一緒に食事でもどうかな?」と言った。
「いいえ、おじいちゃんとおばあちゃんと約束してるので、今晩は一緒に食事をするんです」盛山文音は菅野望月の方を向いて、「一緒に行きましょう」と言った。
「本当に行けません」
「夜ご飯食べないの?」
「……」
「どうせ食事はするんだから、用事があるなら食べてから行けばいいじゃない」盛山文音は熱心で、菅野望月は彼女が湯川俊夫の前で自分と賀川洵の関係を話すことを心配し、仕方なく頷くしかなかった。
「本当にうちに来るの?じゃあすぐに家に連絡します」片付けをしていた賀川野は急いでカメラを置き、メッセージを送り始めた。
湯川俊夫は呆れた。
賀川野この子は……本当に賀川家の子なのか?
どう見ても拾ってきたようだ。
「ここは寒いから、立ってないで風を避けられる場所を探しなさい」湯川俊夫が注意を促した。
菅野望月は舌打ちした。
湯川俊夫はジュエリーデザイン界では有名な厳しい人物なのに、こんなにも人を気遣うなんて。
周りは人の波が押し寄せ……
生きている人と幽霊の区別がつかないほどだった。
「大丈夫です、寒くありません」盛山文音は携帯を取り出し、叔父に一言言おうとした時、突然肩が何かにぶつかった。手術をした足は歩くのには問題なかったが、まだ弱かった。
足がふらつき、転びそうになった。
人にぶつかっても倒れなかったが、携帯は地面に落ちてしまった。
「お嬢さん、大丈夫ですか!」先ほどぶつかった人は綿のコートを着て、帽子とマスクをしており、声も籠もっていた。
「大丈夫です」