江口晗奈は長い間考えていたが、誰がこんなことをするのか思い当たらなかった。
「鈴木最上に精神病院に行って確認させたところ、あなたと樱庭家の者が会った日に、見知らぬ人が岸許豊令の病室に入るのを見た人がいるそうです」と賀川礼は言った。
「誰ですか?」
「監視カメラが壊れていた」
「……」
江口晗奈は頭が痛くなった。
問題は岸許豊令が今や狂人だということだ。
彼は人を殺し、傷つけ……
精神鑑定書があれば、制裁を逃れるのは簡単だ。
彼が見つからない限り、まるで全員の頭上に刃物が吊るされているようなものだ。
江口晗奈は賀川家を去る前に、賀川洵を見て「叔父さん、叔母さんとの進展はどう?」と聞いた。
賀川洵は困ったように溜息をついた。
なぜ彼に会う人みんなが、同じことを聞くのだろう。
自分のプライベートにそんなに興味があるのか?
樱庭司真が直接賀川家まで迎えに来て、二人は手を繋いで仲睦まじい様子だった。賀川様は自分の不肖の息子の腕を突っついて「どうだ?人の仲睦まじい様子を見て、羨ましくないのか?欲しくないのか?」
「樱庭家の若造は若いけど、なかなかやるじゃないか」賀川様は羨ましそうだった。
「ただの腹黒い計算高い犬だ」
「犬だろうが何だろうが、嫁さんをもらえる奴が一番だ」
賀川様は彼を一瞥して、冷笑した:
「人を犬呼ばわりしているが、お前の方がまだまだだな」
言外の意味:
犬以下だ!
賀川洵の顔が真っ黒になった。
**
岸許豊令はまるで蒸発したかのように姿を消し、江口晗奈は妊娠して体調が優れず、ほとんど家に籠もりきりで、外出するのは盛山文音の結婚用品の買い物に付き合う時くらいだった。
賀川礼と盛山文音の結婚日は年末前に決まっており、岸許豊令のために日程を変更することはできなかった。
この間、両家は慌ただしく準備に追われていた。
菅野望月の新居のデザイン図も出来上がり、わざわざ盛山文音に電話をかけ、会って細部やデザインの工夫について直接話し合いたいと伝えた。
「盛山社長、お店にいらっしゃいますか?」
「いいえ、叔父と野鳥撮影に来ています」
「野鳥撮影?」菅野望月は眉をひそめた。「いつ戻られますか?」
「今日は難しいですね」
「では、どちらにいらっしゃいますか?私がそちらに伺います」