334 幸せな子犬、闇の中の牙(2話)

岸許豊令は歯ぎしりするほど憎しみを感じていた。

意識が清明な時、彼は絶え間なく恨みを抱き、その肉を喰らい、その血を飲みたいほどだった。もしこのような不肖の子を生まなければ、こんな目に遭うことはなかったのに。

「樱庭家の結納品に王羲之の【平安の文】があったそうですね。あれは以前、三億円以上の値がついたものです」

「樱庭家がこれほど気前がいいなら、お嬢様も嫁いでから幸せに暮らせるでしょう」

「会社の方は賀川さんが管理を手伝ってくれているので、安心でしょうね」

……

岸許豊令は殺意を覚えるほど怒り狂った。

どうして自分の会社を他人に任せられるというのか!

これは本来、すべて自分のものだったのに。

もしかして最初から、賀川家が彼をここに閉じ込めたのは、財産を奪う算段だったのか?