334 幸せな子犬、闇の中の牙(2話)

岸許豊令は歯ぎしりするほど憎しみを感じていた。

意識が清明な時、彼は絶え間なく恨みを抱き、その肉を喰らい、その血を飲みたいほどだった。もしこのような不肖の子を生まなければ、こんな目に遭うことはなかったのに。

「樱庭家の結納品に王羲之の【平安の文】があったそうですね。あれは以前、三億円以上の値がついたものです」

「樱庭家がこれほど気前がいいなら、お嬢様も嫁いでから幸せに暮らせるでしょう」

「会社の方は賀川さんが管理を手伝ってくれているので、安心でしょうね」

……

岸許豊令は殺意を覚えるほど怒り狂った。

どうして自分の会社を他人に任せられるというのか!

これは本来、すべて自分のものだったのに。

もしかして最初から、賀川家が彼をここに閉じ込めたのは、財産を奪う算段だったのか?

「もう結納も済んだことですし、結婚式も近いでしょう。実の父親として、出席できるかどうかわかりませんが」その人は低く笑った。

「賀川さんも結婚式の準備を進めています」

「そうそう、ご存知かどうかわかりませんが、鐘见寧は盛山家の失われた娘で、すでに本家に戻りました」

岸許豊令の感情は一瞬にして制御不能になった。

あの時、鐘见寧を気に入らなかったから、賀川礼に他の人を紹介しようとして、その後の様々な問題を引き起こしてしまったのだ。

もし早くに鐘见寧の本当の身分を知っていれば、こんな目に遭うことはなかったのに。

今となっては、

自分は完全な笑い者だ!

「あぁぁー!」彼は突然狂ったように叫び声を上げ、額には青筋が浮き出て、顔は醜く歪んでいた!

周りの人々は抑えきれず、最後には鎮静剤を注射し、手足をベッドに縛り付けてようやく落ち着いた。彼が意識を失う前、耳元でこんな声が聞こえた:

「残念ですね。外に出られないから、甥と娘の結婚式に参加できないなんて、さぞ心残りでしょう」

「こんな大事なことなのに、岸許家の誰も知らせてくれないなんて、可哀想です」

「もうすぐ新年なのに、家に帰れないなんて。どんなに言っても親族なのに、彼らの心は本当に冷たいですね。きっと最初から家族として見ていなかったんでしょう」

岸許豊令が閉じ込められてから、江口晗奈と孔田美渺が一度来ただけだった。

母親さえも一度も訪れなかった。