病院内
皆が帰った後、菅野望月はしばらくスマホを見ていたが、充電器を持ってきていないことに気づいた。ナースステーションに行ってコンセントを借りようと思い、布団をめくると、スリッパすらないことに気がついた。
彼女がため息をつくと、ノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
江口晗奈が頼んだ看護師が来たのだと思った。
腕に縫合をしただけで、自分で動けないわけでもないのに、看護師なんて必要ないのに。ただ先輩に夜通し付き添われたくなかっただけなのに。
どうせ看護師が来たなら、何か買い物を頼もうかと思った。
ドアが開く音とともに、菅野望月が顔を上げると、見覚えのある姿が...
「な、なんで、あなたが?」
賀川洵は買い物袋を手に持っていた。
そのまま病室に入ってきた。
「私を見て、緊張してる?」賀川洵は無関心そうに尋ねながら、買い物袋から薄い青のスリッパを取り出して彼女の足元に置いた。
「別に」
「晗奈は僕たちが恋人同士だと思って、看護師代わりに来てくれと頼んだんだ」
「...」
菅野望月は唇を噛んだ。
江口お嬢さんは本当に...初対面で叔母さんと呼び、今度は賀川洵をここによこすなんて、本当に手加減なしだ。
「ベッドから降りて何をするつもり?」賀川洵は気軽な口調で聞いた。
「充電器を借りたくて」
「持ってきたよ」
賀川洵はスーパーに行った後、自分のアパートに戻ってノートパソコンとデザインノートを持ってきて、ソファに座ってデザインの仕事をしていた。菅野望月はスマホを見ながら、つい視線の端で彼を観察してしまう。
どうしてこんなに綺麗な人がいるんだろう。
菅野望月は典型的な顔フェチというわけではない。だって先輩だってとても優れた容姿の持ち主だ。
でも、綺麗で才能もある人は、本当に彼女の心を射抜いてしまう。
しばらくスマホを見た後、洗面所に行こうとした。怪我した方の手を上げると痛みを感じ、力が入らない。片手では髪を結べず、髪を下ろしたままだと歯磨きも洗顔も不便だ。
困っていると、突然賀川洵が洗面所のドアに現れた。
彼女の手首からヘアゴムを取り、後ろに立って髪を集めてくれた。