344 唇を噛まれて、毎日命がけ(2)

賀川洵は苦しそうに唸り、彼女の唇から離れた。血の味を感じ、指で唇の端を拭った。「本当に噛むのか?」

「私は患者よ」

「だから何もしていないだろう」

賀川洵は半歩後ろに下がり、菅野望月は支えを失って洗面台に寄りかかるしかなく、片手で後ろを支えながら、急いだ呼吸を整えようとした。

「どうやら、留学中は彼氏もいなかったようだな」

「外国にはイケメンがたくさんいたわ。私に彼氏がいなかったなんて、どうしてわかるの?」

「キスの技術が、まったく進歩していない」

「……」

菅野望月は言葉に詰まった。

彼女は勉強と仕事のために留学したのであって、恋愛なんて考えていなかった。「あなたのキスは上手そうね。きっと彼女も多かったんでしょう」

「俺のキスが上手いと思うのか?なら、なぜ噛んだ?」