賀川洵は手にしたペンを握りしめ、完成した設計図を修正し磨き上げた。菅野望月は宝物を手に入れたかのように細かく眺めていた。彼女は途中から始めたため、賀川洵ほど基礎が固まっていなかったからだ。
このデザインを依頼主に渡すのが少し惜しい気がした。
賀川洵の心の中では別の思いが巡っていた。
自分のこのアシスタントは……
彼がまだスタジオを設立する前から、彼の作品を非常に好んでいた。後に従業員として応募し、能力を見極めた後、彼によってアシスタントに抜擢された。
彼について、約十年。
この間、勤勉で真面目に働き、すべてにおいて彼を優先し、賀川洵も彼を重用していた。
普段は全ての心思をデザインに注ぎ、スタジオや依頼主との対応など多くの事務は、すべてアシスタントが処理し、それも整然と行われていた。
アシスタントの権限は非常に大きかった。
賀川洵は菅野望月を一瞥した。もし彼のアシスタントが手を回して、ある従業員を排除しようとするなら、それは極めて容易いことだった。
「このデザイン案があれば、とりあえず依頼主様には対応できます」菅野望月は口元に笑みを浮かべた。「賀川先生、ありがとうございます。本当に助かりました」
「大いに助かったのに、『ありがとう』だけ?あまりにも形式的すぎるんじゃないか」
「では、どうやってお礼をすればいいですか?」
菅野望月はデザイン案を手に、手放したくない様子だった。
「キスをしてくれ」
「……」
菅野望月のデザイン案を握る手が突然硬直した。この時、賀川洵はまだ机に座っており、彼女は彼の横に立って、目を伏せて彼を見つめていた。
彼の表情は真剣で、冗談を言っているようには見えなかった。
「先にデザイン案を撮影してアップロードさせてください」菅野望月は身を翻そうとしたが、左腕を掴まれ、強い力で引っ張られ、彼女は思いがけず彼の膝の上に座り込んでしまった。さらに抵抗しようとすると、腰を押さえられた。
「賀川洵!」
「シーッ——」彼は声を低く抑えた。「盛山家は古い家屋だから、防音効果が良くない。もっと叫べば、あなたの師匠を呼び寄せることになるかもしれないよ」
菅野望月は歯を食いしばった。「賀川先生、私はあなたを尊敬していますが、まさかこんなに図々しい一面があるとは思いもしませんでした」