358 ただのピエロ、遺言？（2話）

菅野望月は微笑むだけだった。「ここが私の家なのに、なぜ帰ってきてはいけないの？」

「感心するわ。厚かましい顔して、身分を隠して山河幾許に潜り込んで、賀川先生を誘惑しようとして、今じゃ盛山家と賀川家のプロジェクトまで手に入れて...」

林昊洋は彼女を一瞥し、軽蔑的な眼差しを向けた。

「本当に手練手管が巧いね！」

菅野望月は息を呑んだ。山河幾許に入社して以来、この林助手は彼女に対して強い敵意を持っていた。

「盛山家と賀川家のプロジェクトは、私から接触したわけではありません。林助手、言葉を慎んでください」

「それはどうでもいい。警告しておくけど、賀川先生に近づかないで！」

以前なら、菅野望月は怯えて顔を青ざめさせていただろう。

先輩に守られて育ち、苦労を知らなかった彼女は、林昊洋の嫌がらせに遭うと、どう対処していいか分からず、自分のどこが悪かったのかと反省さえしていた。

でも、それは過去の話。今の彼女は違う。

菅野望月は微笑んで言った。「もし、嫌だと言ったら？」

「お前...」

林昊洋は彼女がそんな言葉を発するとは思わず、驚きの色を浮かべて彼女を見つめた。

「まず、私は今山河幾許の社員じゃないから、あなたの言うことを聞く必要はないわ。賀川先生と親しくするかどうかは、あなたに口出しする権利はないでしょう」

「私にだけそんな口が利けるんでしょ。賀川洵に直接言ってみたらどう？」

「私が悪い女だって告げ口して、私を追放してもらえばいいじゃない」

林昊洋の顔が青ざめた。

「どう？言えないの？」菅野望月は冷ややかに笑った。

「賀川先生は、あなたが外でこんな態度を取っているって知ってるの？」

「数年ぶりに会って、随分口が達者になったじゃないか！」林昊洋は歯を食いしばった。「菅野望月、今夜は建築設計業界全体の祝宴だ。もしこの業界で生き残りたいなら、早めに退散することをお勧めするよ」

「さもないと、後で泣くことになるぞ」

「この業界で生きていけなくしてやる」

菅野望月は低く笑った。「どうするつもり？」

「自分が何をしたか、分かってるはずだろう？」

「お互い分かってることを、そんなふりをするのは面白くないわ」

「北築...」林昊洋の目には嘲りが満ちていた。「所詮、表舞台に立てない道化者の集まりだ」