菅野望月が個室を出ると、東西に伸びる廊下には誰もいなかった。
彼女は眉をひそめた。賀川洵は彼女をからかっているのだろうか。戻ろうとした瞬間、隣の個室のドアが突然開き、一本の手が伸びてきて、彼女の手首を掴み、暗闇の中へ引きずり込んだ……
——
菅野望月の呼吸が止まりそうになった。ドアが閉まった瞬間、床から天井までの窓から差し込むネオンの光だけが、部屋を異様に艶めかしく照らしていた。
心臓が激しく鼓動を打ち、ドクドクと。
心臓が力強く、彼女を打ちつけ続けた。
あの馴染みのある香りを嗅ぐまで、彼女はようやく少し安心した。菅野望月は彼にドアに押し付けられ、賀川洵は両手で彼女の体の両側を支えていた。
首を曲げ、頭を下げ……息が彼女の顔にかかる。
軽く、熱く。
彼女は手を伸ばし、彼を押しのけようとしたが、胸に置いた両手は彼に押さえつけられた。
服越しでも、脈打つ心臓の鼓動が感じられるようだった。
手のひらが次第に熱くなってきた。
「三日経った」
「え?」
「三日も会えなかった」賀川洵は最近盛山家に行っていない。盛山庭川に会うのを避けていたのだ。
彼は盛山庭川を恐れているわけではない。ただ、あいつの機嫌が悪ければ、きっと菅野望月の気分にも影響するだろう。
彼は少し顔を傾け、唇が彼女の耳にほとんど触れそうになるほど近づき、熱い息を吹きかけた。彼女は体を縮め、軽く震えた。異様な感覚が足の裏から広がり、体が自分のものではないかのように柔らかくなった。
彼の唇が少しずつ移動し、彼女の白い頬から始まり、少しずつ擦り寄せていく……
「数日会えなかったけど、僕のこと考えた?」鼻先で擦りながら、肌が軽く触れ合い、心を揺さぶる。「ん?考えた?」
「考えてない」
菅野望月は抵抗し、全身が熱を帯びたようだった。
「先輩、盛山社長たちがまだ隣にいます」菅野望月は眉をひそめた。
「ここは防音がしっかりしてる」
「……」
彼女が言いたかったのはそういう問題ではない。
賀川洵はこの時すでに二歩後ろに下がり、電気をつけた。「最近、盛山庭川に困らされてない?」
「ないです」
ただの先輩だから、彼女のことをそこまで管理できないことが、盛山庭川を憂鬱にさせていた。
重要なのは、先生が後で彼に電話をかけ、事の真相を確認したことだ。
老人は本当に喜んでいた。