菅野望月が個室を出ると、東西に伸びる廊下には誰もいなかった。
彼女は眉をひそめた。賀川洵は彼女をからかっているのだろうか。戻ろうとした瞬間、隣の個室のドアが突然開き、一本の手が伸びてきて、彼女の手首を掴み、暗闇の中へ引きずり込んだ……
——
菅野望月の呼吸が止まりそうになった。ドアが閉まった瞬間、床から天井までの窓から差し込むネオンの光だけが、部屋を異様に艶めかしく照らしていた。
心臓が激しく鼓動を打ち、ドクドクと。
心臓が力強く、彼女を打ちつけ続けた。
あの馴染みのある香りを嗅ぐまで、彼女はようやく少し安心した。菅野望月は彼にドアに押し付けられ、賀川洵は両手で彼女の体の両側を支えていた。
首を曲げ、頭を下げ……息が彼女の顔にかかる。
軽く、熱く。
彼女は手を伸ばし、彼を押しのけようとしたが、胸に置いた両手は彼に押さえつけられた。