370 異例の両親との対面、主客逆転

マンションの中

ドアの閉まる音を聞いて、エプロン姿の菅野お母さんがキッチンから出てきた。「うちの月ちゃんが帰ってきたわね。お母さんが好きな蒸し牛肉を作ったのよ」

「あなたったら、先輩の家にそんなに長く泊まるなんて、迷惑をかけちゃダメでしょう」

「玄関で何してるの?靴を履き替えて入って、手を洗って食事の準備をしなさい」

「お母さん...」菅野望月は唇を噛んで、「いつ来たの?お父さんと」

彼女は父親の目を直視することができなかった。

全身が冷たくなり、一瞬の驚きで魂が抜け出たような気分だった。

「お昼に着いたわ。マンションを片付けて、新しい物も買い足したの。本当は迎えに行って、先輩にお礼も言おうと思ったんだけど、時間が遅くなってしまって、夕食を作って待つことにしたの」

「お父さんと私で地元の特産品も持ってきたから、今度、先輩の家族にお礼に行きましょうね」

菅野お母さんがしばらく話し続けた後、娘が動かないのを見て眉をひそめた。「月ちゃん、何をぼーっとしているの?」

料理で手が油で汚れているため、娘に触れることができず、ただ観察するだけだった。

視線を走らせて...

眉をひそめた。

「月ちゃん、そのまま帰ってきたの?カバンも持ってないの?何日も泊まってたんだから、着替えくらいあるでしょう」

「私...」

菅野望月は息が詰まりそうな気分だった。

どうしよう?

賀川洵がまだ外にいる。

まずい。

やっと付き合い始めたばかりで、両親に会わせる準備なんてできていない。

それに、こんな状況で両親に会わせるのは適切じゃない。

「どうしたの?顔色が悪いわよ」菅野お母さんは何が起きているのか全く分からず、困惑した表情で、「具合でも悪いの?」

「驚きすぎたんだよ」菅野パパが冷ややかに言った。

「え?」菅野お母さんの表情はさらに困惑した。

「何をぼんやりしているんだ。早く開けて中に入れてやりなさい。外は暖房がないんだ。廊下は寒いのに、風邪でも引かせる気か?」菅野パパが直接言った。「お茶でも飲んでいってもらおう」

菅野望月はその言葉を聞いて、微笑んだ。「パパ、外は本当に寒いね」

彼女と賀川洵のことは、ネットで大騒ぎになっていて、両親が知らないはずがない。ただ、普段の電話では、この件について触れなかっただけだ。