盛山庭川はデザイナーで、記憶力が良く、トイレの外で覗いている人が誰なのかすぐに分かった……
このドレスショップは客が少なく、トイレのほとんどは空いていた。
彼がゆっくりと近づいていくと、廊下は絨毯が敷かれていたため足音はほとんど聞こえなかった。すぐに男子トイレから女性の甘い声が聞こえてきた。
「ここではダメ、誰かに見られちゃう」
「誰も来ないよ」
「でも……」
「ここってスリル満点じゃない?」
「あなたって、ひどい——」女性の声は震え、息遣いも荒くなっていた。「お姉さまが個室で待ってるのに」
「待たせておけばいい」
「誰か来たらどうしよう」
「大丈夫、ここは高級ドレスショップだから、店員も空気を読むよ。この前、試着室で……誰も邪魔しに来なかっただろう?」男の呼吸が荒くなった。「それに、今日はそんな格好で、お姉さんの前で俺を誘惑するなんて、スリルを求めてたんじゃないの?」
「違うもん」
「動かないで、ちゃんと座って」
「ここ冷たい、寒いよ」女性は恥ずかしそうに甘えた声を出した。
「どこが寒いの?見せて」
「さっきからずっとお姉さまのことを見てたでしょ。きれいだと思ったの?」
「顔と体つきはいいけど、つまらなすぎる。やっぱり君の方が好きだよ。特にベッドの上で……」
……
その後の会話は、さらに聞くに堪えないものとなり、中の様子も大胆になっていった。
あらゆる卑猥な言葉が飛び交い、まるでアダルトビデオのようだった。
盛山庭川はこんな場面に出くわすとは思わなかった。ドアの前で覗いている人に目を向けると、中でこんなことが起きているのに、まだ見続けている。
見つかることも恐れないなんて。
本当に大胆な人だ。
そして、スマートフォンで動画撮影を終えた女性が、こっそり立ち去ろうとした時、振り返ると後ろに人がいることに気付いた。
視線が突然交わり、
彼女は顔が真っ青になった!
なんで盛山若社長が?
最近どうなってるの?会う回数が多すぎるわ。
彼女は盛山庭川がトイレに行くつもりだと思い込み、すぐに前に出て、彼の口を押さえ、静かにするよう合図した。「しーっ」
盛山庭川は呆然とした。
反応する間もなく、口を押さえられ、女子トイレに引きずり込まれた。
彼は思いもよらなかった……