宴会場
婚約パーティーはもう終わりに近づき、この時残っているのは金子、松本両家の親族と親友たちだけだった。
母が隣にいたため、松本咲良は携帯を確認する機会がなかった。羽沢彩乃は彼女に早めに帰るよう促した。「婚約パーティーはもうすぐ終わるわ。私はお父さんを待つから、先に帰っていいわよ」
「急いでないわ」松本咲良はまだ面白い展開を待っていた。
羽沢彩乃は理解できなかった。ここに残っても意味がないのに。そこへ夫の松本和彦から電話がかかってきた。「咲良はどこだ?」
「私の横にいるわ」
「すぐに宴会場に連れてきてくれ。盛山若社長が来て、彼女に会いたいと言っている」
「どうして?」
「知るわけないだろう。とにかく咲良に会いたいと指名されたんだ。連れてくればいい」松本和彦は急かした。
松本咲良は不思議に思ったが、盛山庭川を怒らせるわけにもいかず、服装を整え、怪我した耳を隠すために帽子をかぶって、ゆっくりと宴会場へ向かった。
この時、会場には半数ほどの客しか残っていなかった。
盛山庭川は表情が冷ややかで、金子、松本両家の人々は端で笑顔を浮かべながら立っていた。
なぜこの方が戻ってきたのか、誰にもわからなかった。
「盛山若社長」松本咲良は笑顔で近づいた。「お呼びとか」
盛山庭川は上着を脱ぎ、彼女に近寄るよう合図した。
周りの人々は不思議そうだった。
松本咲良は心の中で不安が募った。何か良くないことが起こりそうな予感がした。彼女がさらに近づいた時、盛山庭川は既に袖をまくり上げていた。彼女が口角から微笑みを浮かべ、「盛山若社長」と言い終わる前に……
盛山庭川が手を振り上げ、
一発の平手打ちが彼女の顔に炸裂した。
予告もなく、彼女は体がよろめき、地面に倒れ込んだ。帽子が吹き飛び、つい先ほど手当てした耳からまた血が滲み始めた。
全員が息を呑んだ。羽沢彩乃が真っ先に駆け寄った。「盛山若社長、これはどういうことですか?なぜ私の娘を叩くんですか」
「盛山家がどんなに権力があるとしても、こんな虐めは許されません!」
「警察に通報しますよ」
盛山庭川は口角を軽く上げたが、表情は冷たいままだった。「私は既に警察に通報しました。それに……」
「私は権力を笠に着て人を虐めています。それがどうした?」
私に何ができるというのか?