松本雨音はまだ婚約式の時の服装のままで、身なりは整っており、口紅も完璧な状態で、何事もなかったようだった。
「今夜は……」その男が人違いだったと言おうとしたが、木村海に蹴られて言葉を遮られた。
「羽沢叔母の言う意味は、私が無事だったから、今夜の出来事は水に流せるということですか?」松本雨音は冷笑した。
彼女は考えれば考えるほど恐ろしくなった。
盛山文音が無事だったのは、この男が早めに人違いに気付き、そして賀川礼が間に合って助けに来たからだ。
もし自分だったら……
おそらくそんな幸運には恵まれなかっただろう。
今夜は、きっと一生の悪夢になるところだった。
「結局のところ、私はあなたの実の娘ではないから、もし今夜松本咲良が被害に遭っていたら、あなたはそれでも同じように平然としていられたのですか?」松本雨音はゆっくりと羽沢母娘に近づいた。