436 抱きしめられて、心を閉ざして富豪マダムになる

寺院の中、縁結びの木の下で

天気は良く、わずかな風が吹き、白檀の香りが四方に漂い、厳かで静寂な雰囲気が漂っていた。このような場所に来たからには、神を信じているかどうか、仏を拝むかどうかに関係なく、畏敬の念を持つべきだった。

そんな中、松本雨音は突然現れた盛山庭川に心を乱されていた。

彼が……

なぜここに。

「松本さん、どこに掛けますか?」盛山庭川が尋ねた。

しかし松本雨音は考え事に没頭していて、聞こえていなかった。

彼女はただ不思議に思っていた。帝都はそれほど大きくないが、多くの人々が同じ都市に住んでいても、一生会うことのない人もいるのに。

しかも盛山庭川は党に忠実で、迷信を打破するような顔つきをしているのに。

まさか仏を拝みに来るなんて?

でも、お金持ちは特に迷信深く、家の配置も風水を重視するから、彼が寺院に来るのも理解できる。

一方、盛山庭川は周りがうるさくて彼女が自分の言葉を聞こえなかったと思い、少し身を屈めて首を傾けた。体は触れ合っていなかったが、距離は十分に近かった。

近すぎて、彼の息遣いが彼女の耳に触れるほどだった。

松本雨音は熱い息が吹きかけられ、彼の優雅な声と共に耳に直接入り込んでくるのを感じた。

周りの雑音は瞬時に遮断され、

彼の息遣いが、あんなにも近く、

心を乱すほどに。

耳元は彼の息遣いでくすぐったく、耳が徐々に熱くなっていくのを明確に感じ、その熱が全身を巡った。

全身が落ち着かない。

松本雨音は指を強く握り締め、これは単なる生理反応だと自分に言い聞かせた。

「松本さん、紐はどこに掛けますか?」盛山庭川は昨日賀川家で酒を飲んだせいか、普段より低く掠れた声で。

近すぎて、

まるで人を誘うような声音で、心臓が激しく鼓動した。

「ここ...でいいです」松本雨音は適当に手を伸ばし、高い位置を指さした。

二人は寄り添ってはいなかったが、すでに安全な距離を超えていた。松本雨音は離れたかったが、周りは人でいっぱいで、左右にも動けず、後ろには盛山庭川がいた。

仕方なく、彼女はおとなしく立っていた。

「縁結びを願いに来たの?」盛山庭川が何気なく尋ねた。

どうせ彼は自分のことを好きではないのだから、縁結びを願うどころか、彼の目の前で他の人と結婚して、抱き合ったりキスしたりしても、彼は気にもしないだろう。