松本雨音は山下助手を見て、「ビデオを撮ってもらえませんか」と頼んだ。
「これは……」
「もうすぐ新年ですから、面白い芝居があれば皆で見たほうが楽しいでしょう」
山下助手は喜んで協力し、急いで携帯を取り出した。
松本和彦はその平手打ちで完全に呆然としており、妻を信じられない様子で見つめた。「彩乃、どうしたんだ?」
「よくそんなことが聞けますね?」
「私との離婚を騙すなんて!」
羽沢彩乃は彼を睨み続けていた。彼女が不倫相手から松本奥様の地位まで這い上がれたのは、手腕があるだけでなく、もちろん人の心理を読む力もあった。少なくとも松本和彦の感情は正確に把握できていた。
彼の目は落ち着きなく揺れており、明らかに単純な話ではなかった。
羽沢彩乃は息を荒くし、雷に打たれたかのようだった。
「彩乃、これには理由があるんだ」松本和彦は本当に彼女が好きで、浮気されても必死に説明しようとした。
松本雨音はこの光景を見て、ただ滑稽に感じた。
そして母親が不憫でならなかった。
「確かに今夜の騒ぎが大きすぎて、多くの取引先が私たちとの商談を避けている。君が離婚に同意しないと思って嘘をついたんだ」
「それ以外に私を騙したことはないの?」羽沢彩乃は追及した。
松本和彦は考えた。離婚は嘘、関係断絶も嘘だった。
羽沢彩乃がさらに怒るのを恐れ、思い切って首を振った。「ない」
「本当に?」
「誓って、本当にないんだ」
知らないことに、羽沢彩乃は既に彼が関係断絶同意書に署名したことを知っていた。そこには松本咲良が松本家のいかなる財産も相続しないと明記されていた。
彼女の呼吸はますます荒くなり、体も激しく震えていた。
やはり、
男なんて一人も良いものはいない!
松本雨音の言う通り、二十数年前に妻子を捨てられた彼は、今また同じことを繰り返すのだ。
「もういい、何かあったら家で話そう」松本和彦は笑いながら彼女の手を取ろうとした。「君に詳しく話したいことがある」
しかし、彼の手が彼女に触れた瞬間……
羽沢彩乃は手を上げ、
また一発、強く平手打ちを食らわせた!
「パン!」という音が鋭く響き渡った。
ちょうど盛山誠章に殴られた顔の半分に当たった。