藤原修は横を向いて彼女を見つめ、時枝秋は彼の眼差しに心が和らぎ、かつて血まみれの顔で彼女の腕の中に倒れた姿を思い出した。
鼻先の痛みを堪えながら、急いでペンを取り、自分の名前を書き入れた。
二つの証明書を受け取って外に出ると、時枝秋はそれをしっかりと手の中に握りしめた。
園田一帆はこの光景を目にして、目をこすり、太ももを摘んでみた。
夢ではないことを確認した。
今日は太ももが青くなるほど摘んでいた。
車に乗ると、藤原修は姿勢を正して座り、冷たい雰囲気は消えていたものの、依然として重苦しい空気が彼を包んでいた。
時枝秋の態度の変化があまりにも急だったため、彼は喜んで受け入れながらも、これが嵐の前の静けさに過ぎないのではないかと恐れていた。
時枝秋もそれを深く理解していた。この数年間、彼から逃れるために、大小様々な嘘をつき、実現することのない約束をしてきた。
この証明書を手に入れても、彼は彼女の心がここにないのではないかと恐れていた。
藤原修が考え事をしているとき、突然手の中に冷たいものを感じた。
目を落とすと、二つの証明書が彼の手のひらに置かれているのが見えた。
「藤原修、これはあなたが保管しておいてね。」時枝秋の声は終始明るく、瞳の奥には偽りのない笑顔と率直さが浮かんでいた。「証明書があなたの手元にあれば、私も永遠に浅湾別荘に留まりますよ。」
男の骨ばった指が突然こわばり、証明書をしっかりと握りしめ、指の関節が白くなった。
視線は固定され、彼女の眉間に落ちていた。
時枝秋は心痛そうに彼の手を包み込んでいた。「木村雨音が私が逃げ出すと言ったでしょう?あれは全部嘘です。これからは、私自身が言ったことだけが本当なんです。」
「時枝秋。」藤原修の声は低く渋みを帯び、彼女の柔らかい指先を握り返した。
しかし眉間の皺は解けなかった。
彼女の言葉が真実か偽りかを見極めようとしているかのようだった。
時枝秋は「私は以前、目も心も曇っていて、人と犬の区別もつかなかった。でももう二度とそんなことはありません。私以外の人が言うことは何も信じないでください。特に木村雨音のことは。」と静かに言った。
「わかった。」藤原修は喉仏を動かし、低い声で約束した。
「どうして彼女は浅湾別荘を自由に出入りできるの?あなたと自由に連絡を取れるの?」と時枝秋は尋ねた。
藤原修は「わからない」と答えた。
時枝秋はすぐに理解した。これは藤原修のせいではなく、自分のせいだった。
木村雨音は自分の親友という立場を利用して、浅湾別荘の人々が彼女を断れるはずがなかったのか?藤原修も彼女から自分の情報を得られることを断れるはずがなかったのか?
全て自分が間違っていた。
我に返ると、藤原修の表情に不安が見えたため、心が痛み、顔を傾けてマスク越しに彼の唇の端にキスをした。
そして、彼女は彼の瞳の中の暗い色が光に追い払われ、星々が集まるように輝き、明るく眩しくなるのを目の当たりにした。
……
浅湾別荘。
誰もが藤原様の今日の様子が以前とは全く違うことを感じ取ることができた。
彼の周りには言い表せないような穏やかさが漂い、いつもは厳しい顎のラインにも玉のような輝きが宿っていた。
お茶を運んでいた使用人は見とれてしまい、うっかりコップを落としてしまった。顔を真っ青にして、きっと死ぬと思った。
しかし藤原様は手を振って彼女を去らせた。
前代未聞の奇跡!
園田一帆は午後戻ってきた時、助手席に座っていたため、時枝秋が藤原修にキスをする場面を見逃していた。
だから彼には、藤原様のこの感情の変化がどこから来たのか、理解できなかった。
証明書を受け取って出てきた時も、藤原様は相変わらず平然としていたのではないか?
ただ願わくば、今回は時枝さんが本当に言葉通りにしてくれることを!