藤原修の視線が彼女の整然とした証明書に落ち、美しい眉を下げ、物思いに耽っていた。
彼女はこれらを燃やさなかったのか?
時枝秋が先ほど木村雨音に渡した証明書は、実は身分証明書などではなかった。
それは以前使わなくなった学生証明書だった。
木村雨音は時枝秋が既に彼女に対して警戒心を持っていることに全く気付かず、確認もせずに受け取るなり火をつけ、藤原修と時枝秋の間に激しい対立を引き起こそうとした。
前世では、彼女の策略は確かに成功していた。
怒り狂った藤原修は医者を連れて時枝秋を診察させ、怒りに任せた時枝秋は彼と大喧嘩をして飛び出し、二人は決裂寸前まで追い込まれた。
結婚届は、当然取得できなかった。
二人は次第に疎遠になり、積み重なった確執は既に解決不可能なものとなっていた。
だから時枝秋は今世では、もうそんな愚かなことはしない。最初から、悪意ある者に機会を与えないのだ。
時枝秋が無傷の身分証明書を振りながら、笑みを浮かべている様子を見ていた。
藤原修と園田一帆は同時に呆然とした。
時枝秋は藤原修の前で手を振りながら「それで藤原修、あなたの身分証明書は?」と言った。
驚きから目覚めた二人のうち、一人は夢心地のような眼差しで時枝秋を見つめ、その瞳には一瞬の戸惑いが浮かんでいた。まるで今この瞬間が夢なのではないかと疑うかのように思っていた。
もう一人はすでに手足を使って藤原様の部屋へ走り、ロケットのような速さで藤原修の身分証明書を持ってきた。
時枝秋はそれを受け取り、自分のバッグに入れた。
そして、もう藤原修の腕に手を回すのではなく、代わりに彼の手のひらを握り、目尻まで笑みを浮かべながら「行きましょう、手続きを済ませに。」と言った。
藤原修の手のひらには少女の冷たい温もりが伝わり、胸の中は異常なほど熱く焼かれていた。
彼の大切な女が…自ら彼の手を握ってくれた?
初めてだった。
指を絡ませるような形で。
柔らかな指先が彼の手の甲に絡まっている。
電流が神経を伝って彼の脳に走り、瞳の奥と脳裏で、同時に花火が咲き乱れた。
「手続きを済ませに行きましょう」
それは藤原修が聞いた中で、この世界で最も素晴らしい言葉だった。
最も心地よい愛の言葉。
時枝秋は藤原修の手を握ったまま、車に乗り込んだ。
園田一帆も急いで後に続いた。
彼はあまりにも不安で仕方がなかった。
時枝秋は以前、様々な口実を設けては彼女のその婚約者に会いに行くことが少なくなかった。
それなのに我が家の旦那様は、毎回彼女の言葉巧みに騙され、彼女が何をしても信じ切って、そして毎回彼女に深く傷つけられ、粉々に砕かれていた。
園田一帆は本当に懲り懲りで、時枝秋が今回また何を企んでいるのか分からなかった。
彼はただ一瞬も目を離さず時枝秋を見つめるしかできなかった。
道中、園田一帆は目が疲れるほど見つめ続けたが、時枝秋は何も企てなかった。
車は直接市役所に向かい、時枝秋は依然として藤原修の手をしっかりと握っていた。
園田一帆には、旦那様が今、心身ともにリラックスしているのが感じられた。彼の周りの空気までもが軽やかで楽しげだった。
園田一帆は、旦那様がこんな気分でいるのを久しく見ていなかった。
彼はただ、時枝秋と旦那様が中に入った後、無事に婚姻届が出せることを祈るばかりだった。
今日の出来事は全て奇妙に思えていたが。
しかし、どんなに奇妙なことでも旦那様の気分が良くなるのなら、それで良かった!
……
市役所の職員の質問に対して、時枝秋も実は少し緊張して不安だった。
彼女は横目で表面上は平然としている藤原修を見ていた。彼は落ち着いた様子で、質問にスラスラと答え、すぐに指定されたところにサインをした。
もし彼の手のひらに汗が滲んでいなかったら、時枝秋は本当に彼の余裕綽々な態度を信じていただろう。