彼女は前に進み、印刷された四部の資料を四人の指導者それぞれの手元に届けた。
他の三人の指導者は一瞬戸惑った。これまでこの石ちゃんという選手は、原稿を提出するにしても、チームを選ぶにしても、小林凌以外は眼中になかったのだ。
他の指導者たちが示す好意に対しても、彼女は完全に無視していた。
皆が見抜いていた。彼女は小林凌目当ての追っかけファンで、他の三人の指導者も彼女に期待を持つことを諦めていた。
小林凌のファンたちは、彼女を「イエスレデイー」と親しみを込めて呼んでいた。
それなのに今、自ら四部の原稿を用意したというのか?
時枝秋は配り終えると、静かに横で待っていた。
木村雨音は彼女の様子を見て、人目を欺くためにすぎないと思い込んだ。
きっと小林凌への分だけがラブレターで、他の人への分はいい加減なものに違いない。
彼女は急いでこの場面を撮影し、藤原修に送信して、ラブレターの件も伝えた。
……
その時、収録室の外で、藤原修の眉間には冷たい霜が降りていた。
十分な広さがある車内も、彼の感情によって息苦しいほどの緊張感に包まれ、園田一帆は息もできないほどだった。
藤原修が手元で転送されている生中継を見ながら、園田一帆は時枝秋が本当に自滅的だと感じた。
番組の収録に来ると言っていたが、結果はどうだ?
結局は小林凌に媚びを売りに来ただけじゃないか?
昨日の結婚証明書は、彼女にとって飾りでしかないのか?
藤原修はスマフォンを握りしめ、形が変わりそうなほど強く握っていた。
……
現場では。
四人の指導者は時枝秋の原稿を見て、表情が極めて豊かに変化した。
そのうち二人は小声で話し合った後、ボタンを押した。
しかし、それは×印のライトで、二つの耳障りな音は彼らがその場で時枝秋を諦めたことを示していた。
予想通りの展開だった。
全てのメンバーが冷静だった。
続いて、小林凌が√のライトを押した。緑色、合格!
今回の番組で、小林凌は何度も時枝秋に緑のライトを与え、彼女を今まで推してきた。時折見せる彼女の良い演技のおかげで、皆は小林凌に特に不満は持っていなかった。
今回も緑のライトを与えたのを見て、皆はやや呆れ気味だった。アイドルがファンを確保するために、随分と優しすぎるんじゃないかと。
どうやら、時枝秋は本当に残れそうだった。
そのとき、もう一人の審査員である紺野広幸が手を伸ばしてライトを押した。
√。
緑色!
紺野広幸は専門的な教育は受けていないものの、音楽家の家系の出身で、一流大学を卒業し、儒雅で聡明だ。商業的な知名度は高くないが、専門的な能力は非常に確かだった。
彼の緑のライトは、時枝秋の専門的な能力を認めたことを意味していた。
番組のルールによると、四人の指導者全員が選手にライトを点灯することができ、選手は指導者の中から自分の希望する人を選ぶことができる。
今、小林凌と紺野広幸が同時に時枝秋に緑のライトを点けたので、時枝秋は小林凌と紺野広幸の間で選択することができる。
「彼女は間違いなく小林凌を選ぶだろうね」
「全く疑問の余地がないね」
皆がそう小声で話し合っていた。
番組スタッフも結果は明らかだと思っていた。
「石ちゃん、今は選択権があなたの手の中にあります。正しい選択をしてください」と紺野広幸は穏やかに言った。
時枝秋の原稿を見て、彼は非常に感心していた。なんという天賦、なんという才能だろう!
彼自身も作曲作詞を得意としているが、自分の全盛期の創作の閃きでさえ、時枝秋が提出したこの原稿と比べられるかどうかというところだった。
小林凌は笑顔を見せながら、「後悔するような選択はしないでください」ととてもかっこよく言った。
「私は…」時枝秋は言葉を最後まで言わず、直接指導者席の方へ歩き出した。