口に出せなかったが、時枝秋は確かに彼の可愛い人だった。
ふわふわの髪、カールした睫毛、どこを見ても可愛らしく、その可愛らしさに彼の心は溶けてしまいそうだった。
「あなたもあれがラブレターだと思うの?」時枝秋は携帯を彼に渡して、「見て!」
それは彼女が出演前に録画した動画で、四つの楽譜は全く同じものだった。
小林凌に渡したものも、他の審査員に渡したものも、まったく違いはなかった。
藤原修は指を緩め、黒い瞳の中で暗い波が絶え間なく渦巻き、炎のように燃え上がり、やがてゆっくりと静まっていった。
そして、一瞬の後悔の色さえ浮かべた。
時枝秋は分かっていた。彼には彼なりの判断があることを。
しかし、これだけのことで、彼の一時的な信頼しか得られない。
大丈夫、時が経てば分かる。
もう一度人生をやり直せるなら、彼女には十分な時間がある。
「とりあえず、食事に行かない?」時枝秋は彼の習慣を知っていた。一度感情が不安定になると、食べられなくなり、眠れなくなり、怒りに満ちたまま仕事に没頭してしまう。
そんな状態が、彼の人生をほとんど台無しにしかけた。
彼女は自ら藤原修の手を取った。
手を取ってみると、彼の手のひらに傷があり、しかも全く手当てもしていなかった!
「藤原修、これどうしたの?痛くない?」時枝秋は慌てて尋ねた。
藤原修は黙ったままだった。
時枝秋が小林凌を選びそうになった瞬間、携帯で手のひらを切った傷は、怒りと絶望しか感じさせず、痛みなど微塵も感じなかった。
時枝秋は心配になり、救急箱を持ってきて、彼の手当てを始めた。
藤原修は毛を撫でられたライオンのように、大人しく爪を差し出し、時枝秋の世話を受け入れた。
アルコールが傷口に噴きかけられても、彼は眉一つ動かさなかった。
大島執事がお茶を持ってきた。時枝さんに対して不満があったものの、彼女が藤原様の傷の手当てを説得できたことを見て、思わず安堵した。
藤原様は戻ってきてから出血が止まらず、園田一帆も大島執事も試みたが、誰も彼を休ませて傷の手当てをさせることができなかった。
時枝秋は前世で、この傷が化膿して、その後長い時間かかって治ったことを覚えていた。怪我と気分の悪さで、彼の体調はますます悪化していった。
今度は、そうはさせない。
彼が大人しくしているのを見て、時枝秋は包帯を巻き終えると、ご褒美のように彼の額にキスをして、「そう、いい子いい子」と言った。
藤原修は突然顔を上げ、瞳には鋭い光が満ちていた。
傍らにいた大島執事は呆然とした。時枝さんは猫や犬、それとも子供をあやしているのだろうか?
珍しいことに、藤原様は少しも不快感を示さなかった。
「大島執事、早く夕食の準備をお願いします。私、一日中忙しくて、もう死にそうなくらいお腹が空いているの」と時枝秋は言った。
時枝さんが一緒に食事を?
以前は藤原様と同じテーブルで食事をすることなど一度もなかったのに!
大島執事は自分の頬を叩いて、夢を見ていないことを確認してから、すぐに準備に取り掛かった。
今の時枝さんは確かに醜くなってしまったが、改心して藤原様を幸せにできるなら、それも良いことだ。
幸い藤原修の怪我は左手だったので、食事には特に問題はなかった。
時枝秋は彼におかずを取り分けながら、彼の食事する様子を見つめていた。
今になって気づいたが、藤原修は食事の際、素早くも優雅な動作で、それは生まれながらのキングの気品だった。
小林凌の雰囲気とは違い、彼の場合は大衆の審美眼に合わせて作られた上品さではなく、藤原修のような天性の優雅さではなかった。
彼女は前世で飲んだ水は、きっと全部脳みそに染み込んでいたのだろうと思った。