二人は素早くステージに上がった。
木村雨音が歌い始め、田中航が合唱した。
すべてが見事に調和していた。
コメント欄には親指を立てるアイコンが溢れていた。
「雨粒ちゃんはすごいわね。今回の作詞作曲も彼女が手掛けたって聞いたわ!」
「歌もできて作曲もできる稀有な才能ね!」
「前の曲も何度もリピートして聴いてたわ!」
「今回は間違いない!ローズちゃんの座を狙えるだけの実力があるわ!」
「ローズちゃんは今回、小林凌とコラボしてて人気爆発中だから、雨粒ちゃんがその座を狙うのはまだ少し距離があるんじゃない?」
みんなが熱心に議論している最中、木村雨音の転調で少し問題が起きた。
観客たちはプロではないが、耳は決して嘘をつかない。
彼女たちはプロではないが、それは自分の判断力がないということではない。
前半は木村雨音と田中航の歌唱が素晴らしく、非常に印象的だったが、一つの転調で問題が起きた後、後半は二人とも明らかに力尽きた様子だった。
前後の対比があまりにも鮮明で悲惨で、観客たちは顔を見合わせた。
審査員も問題に気付き、紺野広幸は小林凌に小声で言った:「雨粒ちゃんの中間の転調は、非常にテクニックが必要で、うまく転調できれば後半はもっと印象的になったはずだ。」
小林凌もこの問題に気付いていた。「私もその点を指摘したんだが、練習時間が足りなかったのかもしれない。」
彼は内心悔やんでいた。木村雨音の演技がこんなにも劣っているなんて。
自分が作った曲で、難しい部分がどこにあるか分からないはずがない。
木村雨音と田中航がステージを降りる時、二人とも表情が良くなかった。
後半全体が完全に崩壊していた。
しかし田中航は木村雨音を責めることができなかった。結局、練習の時は二人の息も合っていたのだから。
楽屋のスタッフの中に木村雨音のファンがいて、残念がって叫んでいた:「雨粒ちゃんはきっと疲れていただけよ!彼女の歌唱力も作曲能力も問題ないのに!」
堀口楓はこれを聞いて、さらに緊張した。
時枝秋だけが終始平然としていた。
この展開は既に予想の範囲内だった。
木村雨音本来の作曲能力は非常に弱く、当初は時枝秋の曲と小林凌の推薦のおかげで順調に進んでいただけだった。
時枝秋が今回彼女に与えた曲は、非常に印象的だが、いくつか難しい部分が含まれていた。