第36章 傅様を逃したのは、もったいないじゃない?

時枝清志はそこで思い出した。目薬を持ってきた時、時枝お爺さんは二度とも正確に彼の手から物を受け取っていたのだ。

先ほど時枝秋が入ってきた時も、一言も話さなかったのに、時枝お爺さんは彼女が入ってきたことをすぐに察知していた。

どうしてそんなことが可能なのか?

十数年間も失明していて、国内外の名医を全て訪ねたのに、状態は悪化する一方で、回復の兆しは全くなかったはずなのに。

今、お爺さんは...本当に見えるようになったのか?

「見える。はっきりとは見えないがな」と時枝お爺さんは言った。「だから薬は続けないといけない」

昨夜も薬を飲み忘れたせいで、夜中に起きた時、ぼんやりと見えていた景色が再び消え、焦った拍子に体が支えきれなくなって気を失ってしまったのだ。

他の誰よりも自分がよく分かっていた。体の他の問題は全て精神的なものだということを。