「軟弱な音楽ね!」藤原千華は容赦なく批判した。
彼女は藤原家の長女として、家族の責任を早くから背負っていたため、このような甘い歌には興味がなかった。
しかし、ちらりと見ただけでも、このプログラムが完全な生放送だということに気づいた。
番組側が時枝秋と共謀して録音を流していないのなら、彼女の声質と歌唱力は確かに悪くないと言えた。
看護師は彼女が気に入らないのを見て、急いで言った。「では藤原お嬢様、お邪魔しませんので、少しお休みになられては?」
彼女は暇な間に、他の同僚と一緒に見ようと思った。
「待って」藤原千華は時枝秋にどんな実力があるのか見てみたかった。「ここで見ていいわ、私も聞いておくから」
「勝った勝った、石ちゃんが勝ったわ!」看護師は喜色満面で言った。「もう二度と石ちゃんの悪口は言わないわ!」
……
この勝負で、時枝秋はわずかな差で周防成盛に勝利した。
彼は降壇する前に、心が晴れ晴れとして、前に出て時枝秋と握手を交わした。
彼は普段以上の実力を発揮したが、それでも負けた。後悔はなく、会社からの叱責も恐れなかった。
万人の注目の中、時枝秋の手を掲げ、彼女が真の勝者であることを示し、すべての拍手を彼女に送ってほしいと願った。
彼が時枝秋を対戦相手に選んだ行為は正々堂々としたものではなかったが、負けた後の態度、寛容さは、観客から称賛と拍手を受けるに値するものだった!
「しっぽちゃんも実は悪くないんだけど、でも英雄の前に英雄なしってね、石ちゃんに当たっちゃったのが運の尽きよね?」
「今夜の石ちゃん、マジでリスペクト!」
「私、前の試合で石ちゃんのアンチからニュートラルになったわ!」
「へへ、私はとっくにファンになってたよ!」
次のPK戦に臨む木村雨音は、すでに早くからバックステージで準備を整えていた。
彼女は時枝秋と相談して、自分を通してもらおうと思っていたが、今夜はカメラが至る所にあり、時間も特に切迫していたため、チャンスがなかった。
彼女は長いため息をついた。
ゴールデンエンタメからも、直接時枝秋を選ぶようにとの意見が来ていた。
そのような選択は非難を免れないかもしれないが、木村雨音にも分かっていた。時枝秋を選ぶのが最も安全な道だということを。