第59章 音が外れた

木村雨音はすぐに安心した。

彼女は以前歌ったことのある『あなたを想う』という曲をすぐに選んだ。

この曲は彼女が最も評価が高く、人気のある曲だった。

また、時枝秋の手によるもので、木村雨音の才女としての名声を確立した代表作でもあった。

時枝秋が生まれ変わって戻ってきた時、この曲はすでに彼女に渡していた。

もちろん、時枝秋はそれを気にも留めず、惜しくも思わなかった。なぜなら、この曲は当時、小林凌への真摯な想いを込めて書いたものだったから。

取り戻すなんて、吐き気がしそうだった。

しかし、実はこの曲にも罠がないわけではなかった。

時枝秋が作る曲には全て、彼女独自の遊び心と趣味が隠されていた。それは、十分に練習したと思っていても、ステージに上がると、ある転調で問題が起きて全てが台無しになってしまうというものだった。

前回、木村雨音と田中航はそれで失敗したことがあった。

今回、木村雨音は前回の曲を特に避けたのは、また予期せぬことが起きるのを恐れたからだった。

この『あなたを想う』は何度も練習して、スラスラと歌えるようになっていた。

彼女はすぐに自信に満ちた様子でステージに上がり、パフォーマンスを始めた。

観客は彼女の才女としてのイメージを非常に好意的に持っており、彼女がステージに上がるとすぐに多くの支持を得た。

時枝秋は静かに彼女の歌唱を見つめていた。前世では、彼女はいつも木村雨音にこれらの曲の罠がどこにあるかを教え、注意深く避けるよう指導していた。

しかし今回は、時枝秋の指摘なしでは、木村雨音は順調に歌い切れるかもしれないし、

あるいは...完全に失敗するかもしれない。

全て確率次第だった。

案の定、木村雨音が最も恐れていたことがすぐに起こった。

二番のサビ部分を歌っている時、すでにクライマックスの部分を過ぎていたので、気持ちがリラックスして自然な状態になり、以前のように簡単に歌い終えられると思っていた。

しかし次の瞬間、彼女は突然音が外れてしまった!

音程がずれたわけでも、転調で問題が起きたわけでもない。

本来最も自然で、問題が起きるはずのない箇所で、音が割れてしまったのだ!

会場が騒然となった!

観客が騒然となった!

コメント欄でも議論が始まった。

「雨粒ちゃんがどうしてこんなに調子を崩すなんて?」