第60章 顔値こそ正義

「だめよ、だめ!」

「離れちゃいけない!」

彼女が取り留めのない考えに浸っているとき、司会者の声が耳に入ってきた。「ただいま、雨粒ちゃんと石ちゃんは素晴らしい実力を見せてくれました。皆さんの手の中に、彼女たちのステージでの運命があります。さあ、指を動かして、残したい方を選んでください!準備はいいですか?5秒数えますので、その後で投票してください!5、4...」

木村雨音は突然我に返った。時枝秋の歌は終わっていたのか?

彼女の出来栄えはどうだったのか?

音程は外れていなかったか?予想外の結果はなかったか?

自分との比較ではどうだったのか?

頭の中が真っ白になりながら、時枝秋の方へ歩み寄り、彼女の隣に立った。

投票チャンネルがまもなく開かれる。

自分が残れるかどうかはこの一瞬にかかっている。

「3、2...」司会者のカウントダウンは、まるで命を削る呪文のようだった。

木村雨音は突然、時枝秋に向かって体当たりし、バランスを崩したふりをして、慌てふためいた様子で時枝秋のマスクを引きはがした。

一瞬のうちに、時枝秋は再びマスクを付け直し、素顔のすべてを見せることはなかった。

しかし、彼女の唇の上にある歪んで恐ろしい傷跡は、カメラに捉えられてしまった。

カメラはすぐに切り替わったものの、彼女の醜い姿は観客の目に入ってしまっていた。

全員が時枝秋の傷跡を目にした。

さらに、現場を録画していた人々が、その場面を繰り返し再生し始めた。

石ちゃんはスタイルがいいと羨ましがられていたのに、素顔がこんなに醜いの?

コメント欄の注目は即座に彼女の容姿に集中した。

「え、私の目は間違ってない?石ちゃんってこんなに醜いの?」

「オーマイガー、こんな顔は受け付けられない。」

「こんなこと言うのは良くないけど、夕飯吐きそうになった。」

「あんなに甘い歌を歌う人が、こんな不細工な顔してるなんて?無理、受け入れられない!」

「みんな顔じゃなくて、歌声に注目できないの?」

「上のコメントに返信するけど、理性では顔を気にしなくていいって分かってるけど、心も手も言うことを聞かないんだよね。」

「國民シンガーソングライター」は企画当初から、s国の芸能界で本物の才能を発掘することを目的としており、顔を見ないというのが最大の売りだった。