第61章 気骨があると認めよう

時枝秋は頭を下げたまま考え込んでいた。

堀口楓は心配のあまり泣きそうになっていたが、彼女が黙っているのを見て、近寄って邪魔するのも怖かった。

紺野広幸は怒りを爆発させていた。「今日は一体どうなってるんだ?なぜすべての問題が時枝秋に降りかかるんだ?」

演出チームは時枝秋のことはあまり気にしていなかったが、紺野広幸の気持ちは非常に気にかけており、人を手配して彼を慰めていた。

「ごめんね時枝秋、私のハイヒールが滑りやすくて」木村雨音は慎重に謝罪していた。

しかし、目の奥に潜む得意げな表情は隠しきれていなかった。

時枝秋は彼女を一瞥し、笑いながら言った。「そう?じゃあ、これからは気をつけてね」

「それで時枝秋、誰に挑戦するか決めた?」木村雨音が尋ねた。

傍らにいた22位から15位までの出場者たちは、一瞬で震え上がった。

理論的に言えば、彼らが最も選ばれやすい候補者だった。

今日までなら、彼らは時枝秋の挑戦を恐れることはなかっただろう。

しかし今日、彼女が5試合連続で戦い、戦うほどに強くなっていく様子や、各出場者の曲に対する理解度、歌唱の熟練度を見て、皆の潜在意識の中で、既に彼女を強敵として認識し始めていた。

たった今、彼女が醜い素顔を見せたにもかかわらず、木村雨音でさえ僅か100票差でかろうじて勝利したに過ぎなかった。

他の人々は自分に時枝秋を完全に打ち負かす実力があるとは言えなかった。

時枝秋はすぐには決めず、ただ「まだ考えていない」と言った。

紺野広幸が近寄ってきて、時枝秋を脇に連れて行き、小声で言った。「時枝秋、相手はよく選ばないとな。さもないと本当に去るしかなくなる。20位の葉山暁子と22位の赤司宏司は、パフォーマンスが安定していない選手だから、彼らを選んでみるのもいいかもしれない」

この二人は他の指導者グループの選手で、紺野広幸がこの提案をしたのは、時枝秋のことを本当に考えてのことだった。

彼女は頷いて言った。「少し考えさせてください」

紺野広幸は彼女の実力が着実に上がっているのを見て、安心した。

……

病院で、看護師は藤原千華が石ちゃんをあまり好きではないような様子を見て、携帯電話を少し遠ざけた。

「ちょうだい、ちょうだい」藤原千華はすぐに我慢できずに身を乗り出した。