第55章 尊厳なき敗北

彼が歌った時、多くの専門家がこの曲の特徴と難しさについて解説していた。

時枝秋は安定した歌唱力だけでなく、力強さもあり、斎藤恒介とは全く異なるスタイルながら、それぞれに素晴らしかった。

画面上で、彼女がクライマックスを歌う部分で一瞬の間があり、大きな空白が生まれた。

彼女が歌い継いだ時、みんなが再びコメントを送り始めた。

「これが本当に石ちゃん?」

「すごい!超凄い!私はオペラ専攻だけど、あそこまでの高音は出ないわ。」

「重要なのは高音なのに美しいってことよ!」

「耳が妊娠しちゃった。」

「ママ、なんで正座して聞いてるのかって聞かないで。膝が勝手に動いちゃったの。」

小林凌は頭を下げて考え込んだ。これらの歌は、歌詞がこれまでとは違い、新しい人生への憧れを意味していた。

時枝秋は...本当に過去を手放すつもりなのか?

ずっと特に何も考えていなかった木村雨音も、この瞬間、時枝秋を新たに認識した。

心臓が思わず締め付けられた。

時枝秋はいつこんなに急成長したのだろう?

そうだ、きっと藤原修が極めて専門的な先生を探して、彼女を指導させたに違いない。

トップレベルの先生による的確な指導があれば、時枝秋どころか、自分だってできる!

この一回の歌唱が終わると、すぐに投票結果が出た。

司会者は票数を見て、まったく驚かなかった:「帆足、十五万票。石ちゃん、七十万票!帆足、脱落!」

彼の声にも少し喜びが混じっていた。

時枝秋のことは好きではなかったが、田中航の今回の振る舞いは本当に品がなさすぎた。

この票数は、まさに実力通りの結果だった。

仮面の下で、田中航は死人のように青ざめていた。彼はこのステージに残りたかったのだ!

そのために、人格を失うリスクを冒してまでこの選択をせざるを得なかった。

しかし彼は時枝秋を過小評価しすぎていた。完全に負けただけでなく、尊厳まで失って負けたのだ!

このようにステージから「追い出される」形で、彼の人生は、きっとこれから暗いものになるだろう。

続いて脱落圏の三番目の選手が登場した。張本蓮、コードネームは蓮ちゃん。

彼女は最初から時枝秋を標的に選んでいた。

たった一つの理由で、以前バックステージにいた解雇されたスタッフは彼女のいとこで、常に全力で彼女の競技を支援していた。