第65章 時枝秋に従わざるを得ない

木村裕貴の視線は木村雨音の方に向けられ、何かを考えているようだった。

時枝秋はずっと知っていた。木村裕貴は木村雨音に対して不思議な好意を持っていて、彼女を見るたびに目が輝いていた。

ただ、藤原修との約束で彼女一人だけを担当することになっていたため、木村雨音と契約することができなかった。

彼の目つきを見ると、今夜の木村雨音の敗北をかなり気にしているようだった。

もしかしたら、藤原修に木村雨音との契約を認めてもらおうとするかもしれない。

時枝秋は真剣に忠告した。「木村さん、木村雨音は投資する価値のある人ではありません。諦めて、私のプランニングに時間を使った方がいいですよ」

木村裕貴は冷ややかに鼻を鳴らした。「一回勝っただけで、私のことに口出しできると思うなよ」

そう言い捨てて、彼は背を向けて立ち去った。

木村雨音の創作能力は、時枝秋の比ではない！

時枝秋は彼に言った。「私は送迎車に乗りません。先に行ってください」

木村裕貴は彼女を無視し、陸田に運転させて去っていった！

時枝秋が出演者用の裏口付近に立っていると、見慣れたロールスロイスが彼女の足元まで滑り寄ってきた。

予想するまでもなく、藤原修が彼女の試合を見に来ていたことは分かっていた。

試合を見るだけで介入できないため、藤原修の不安症はきっと限界に達していただろう。

直接迎えに来るのも当然のことだった。

案の定、車のドアが開くと、中からの冷気で裏口全体が凍りつきそうなほどだった。

時枝秋が車に乗り込むと、園田一帆は「最後の救いの藁」を見るような目で彼女を見つめ、今にも土下座しそうだった。

藤原修は氷山のように、薄い唇を固く結び、眉間にしわを寄せ、目には不機嫌さが満ちていた。

時枝秋は一晩中次々と挑戦を受け続け、彼は物を壊すことはなかったものの、心の中に家があるとすれば、そこは完全に荒れ果てていたに違いない。

時枝秋が乗り込むと、藤原修はようやく表情を和らげ、手を伸ばして彼女を引き寄せ、抱きしめた。

時枝秋は口元に笑みを浮かべ、小声で言った。「私のことを心配してたの？」

藤原修は彼女の頭に顎を乗せた。一晩の戦いで彼女の長い髪は少しふわふわと浮き上がり、彼の頬をくすぐっていた。

「あいつらなんてちっぽけな存在よ。旦那様が手を下す必要もなく、私が自分で全部やっつけちゃった！」