時枝秋は意図的に自分の声を偽装したので、二人とも彼女の声に気付かなかった。
木村雨音のような異常者だけが、目的を持って来ているからこそ、他の方法で素早く彼らの一行を見分けることができたのだ。
時枝秋が時枝雪穂と蘭の競り合いを始めたと聞いて、木村雨音は興奮で指が微かに震え、すぐに新しく作った携帯番号から藤原修にメッセージを送った:「藤原様、時枝秋に関することです。今日、小林凌がオークションで自分の応援花を競り落とそうとしていたところ、時枝秋が大金を出して、おそらく落札後に小林凌に贈るつもりです。」
送信後、彼女は携帯をしまった。
彼女は藤原修が返信しないことも、返信する価値がないと思っていることも知っていた。
しかし、時枝秋という二文字さえあれば、彼は必ず傍観者ではいられないはずだ。
今度こそ、時枝秋と藤原修の間に、本当の亀裂を生じさせてやる!
オークションの方は、まだ白熱した状態で進行していた。
「二百万!」時枝雪穂はすでに価格を二百万まで上げていた。
今日の全ての花の中で最高額となっていた。
彼女は本当に腹が立っていた。まさか誰かが自分と蘭を争うなんて。
これは小林お兄さんに贈るものなのに!
しかし、オークションは全ての人の自由であり、彼女もその見知らぬ少女を止めることはできなかった。
「三百万」時枝秋は即座に値をつけ、もう少しずつ上げる気もなかった。
時枝雪穂はその少女の声を聞いて、体が震えた。
他の参加者は皆すでに値をつけることを諦めていた。花というものは価格が高騰しやすいものの、基本的には実際の価値以上に膨れ上がっているだけで、購入後に上手く育てられなければ枯らしてしまい、元も子もなくなってしまう。
理性的な人なら虚名のためにむやみに金を使うことはしない。
皆は二人が値段を競り合い、価格を更に引き上げていくのを見守っていた。
小林凌と横澤蕾も顔を見合わせ、若い女の子が時枝雪穂と値段を競り合うとは思いもよらなかった。
時枝雪穂は躊躇い始めた。
彼女は時枝家に戻って既に多くの年月が経ち、公認のお嬢様ではあったが、いつも高潔ぶって、金銭を物ともしない態度を取り、家族からもらうお金に対しても、まったく気にしていないような態度を見せていた。