これは彼女が鼻炎を患って以来、久しぶりにこんなにぐっすり眠れた一夜でした。
普段は鼻づまりで目が覚めてしまい、長く眠れずに寝返りを打っていました。
たまに一晚中眠れても、起きた時はぼんやりしていて、こんな心地よい目覚めは珍しいことでした。
時枝秋のことを思い出し、思わず微笑みました。あの女の子、なかなか面白い子だなと。
朝早くから、彼女は番組のスタジオに行き、時枝秋を待っていました。
時枝秋は普段用事がない時は番組スタジオにいることはありませんでしたが、わざと遅刻することもありませんでした。
今日は早めに来て、すぐに輝くような表情の葉山彩未が目の前に立っているのを見かけました。
「石ちゃん!」葉山彩未が近づいてきて、「昨日のミントの葉をありがとう。この鼻炎、久しぶりにこんなに通りがよくなったわ」
「効果があったなら、ここにもう少し摘んできたわ」時枝秋は手を伸ばして透明なプラスチックの小箱を差し出しました。中には十数枚入っていました。「あなたが帰る時に、鉢に植えたのを一株あげるわ、持って帰って」
葉山彩未の家は別の都市にあり、今はまだこちらに滞在中でした。
「本当にありがとう」
この辺りで二人が小声で話しているのを聞いて、横澤蕾が通りかかりました。
彼女が戻ると、小林凌はメイクをしているところでした。今日は番組の予告編を撮影する予定で、彼には重要なシーンがありました。
時枝雪穂は今日こっそり現場見学に来ていて、この時は楽屋で彼に付き添っていました。
横澤蕾は先ほど見たことを話し、言いました。「葉山彩未は本当に時枝秋からもらったものが鼻炎に効くと信じているの?売れない者同士、気が合うってことね」
時枝雪穂は優しく小林凌を見つめながら言いました。「時枝秋はやはり田舎町の出身だから。あの町は実際、花や草がたくさん生えているから、本当に効果があるかもしれないわ」
横澤蕾はそこで何かを思い出したように言いました。「そうね。でも町って言っても、ただの田舎でしょう?」
時枝雪穂も思い出しました。当時、彼女と尾張家のお爺様があの町に住んでいた時は、買い物も不便で、物質的な生活は極めて乏しかったことを。
ただ、尾張家のお爺様は教育だけは疎かにしてはいけないと言って、絵画とピアノのスキルを教えてくれる先生を特別に雇ってくれました。