みんなが一段落練習して休憩時になると、多くの出場者たちはサイン帳を持って、有名な先輩たちのサインをもらいに行った。
葉山彩未の方には、ほとんど誰も寄ってこなかった。
時々「彼女は誰?」
という声が聞こえてきた。
葉山彩未は自嘲的に笑った。二十数年も表舞台から姿を消していたから、確かに忘れ去られた存在になっていた。
「葉山彩未さんよ。かつて大ヒットした『愛は痛み』を歌った人だよ」
「えっ?彼女が歌ったの?全然分からなかった」
「石ちゃんとのペアは、ちょうど...」
なぜ「ちょうど」なのか、誰も口に出さなかった。
でも、その言外の意味は明らかだった。
文岩薫里もその噂を聞いて、こちらを見たが、その眼差しは冷淡で、どんな態度なのか、悪意があるのかどうかも推し量れなかった。
「あなたの車輪戦を見ましたよ。とても素晴らしい演技でした」葉山彩未は不思議そうに時枝秋を見つめた。「でも、どうして皆さんはまだこんな態度なんでしょうか?」