とにかく木村永司が彼女を訪ねてこないなら、彼女もあの投資家を訪ねなければならない。
木村永司はそれを受け取ると、少し落ち着かない様子で、小声で言った。「あの、石ちゃん、ありがとう。」
彼は急いで立ち去った。
重岡亜紀と木村雨音たちは思わずこちらを見た。
みんな最大の投資家が来ていることを知っていたが、何をするつもりなのかは分からなかった。
誰かが小声で言った。「聞いた話だけど、投資家が追加投資をしたらしいよ。気に入った歌手は全員、大金をかけてプロデュースするって!」
「私も聞いたわ。この社長が上位6位までの歌手にいろんな支援を約束したって。アルバム制作だけじゃなくて、いろんな研修にも送り出すし、賞金も信じられないほど高額だって。順位が上位なほど、支援も充実するみたい!」
「しかも、トップ3に入った人には、少なくとも5枚のアルバムを出せる資金を保証するって社長が約束したんだって!」
みんな羨ましそうな表情を浮かべた。
今のオーディション番組の多くは、掘り出すだけで育てることはしない。
多くの出場者はデビューと同時に失業し、支援はおろか、生活費すら足りない。
衣装代も自己負担の人もいるし、家庭が裕福でない出場者には業界に入らないよう諭す制作者もいる。
コンテスト中の華やかな光は、すべて仮初めの輝きに過ぎず、コンテストが終われば消えてしまう。
「國民シンガーソングライター」がこれほどの支援を約束できることは、全員にとって大きな魅力だった。
みんなが必死になって残ろうとするのも無理はない。
重岡亜紀と木村雨音は二人とも黙って考え込んでいた。
重岡亜紀は以前、いつも3位か4位をうろうろしていた。
しかし堀口楓と時枝秋が台頭してからは、彼女の順位は後ろの方に押しやられた。
彼女のプレッシャーが一番大きかった。以前は文岩薫里と木村雨音の次に人気があった。
でも今では普通の参加者と変わらなくなりつつあった。
木村雨音は彼女以上にプレッシャーを感じていた。
彼女は一度脱落している。
今回は、もう後がない。
二人は同時に一つの方法を思いついたが、必死でその考えを押し殺し、表に出すことも、人に知られることも恐れていた。
……
12人から6人を選ぶ試合が、みんなの期待の中で幕を開けた。
出場者全員が万全の準備を整えていた。