ボディーガードは彼女が藤原修に近づく機会を与えるはずがなかった。
藤原修は時枝秋に低い声で尋ねた。「さっき、何味が飲みたいって言ってた?」
「あなたと同じでいいわ」と時枝秋は言った。「先に並んでて。私、ちょっとトイレに行ってくるわ」
彼女はトイレに入り、かつらを外し、顔のメイクを拭き取ってから、ゆっくりと木村雨音の方へ歩いていった。
木村雨音はもう絶望していた。今や藤原修さえも助けてくれず、もう行き場がなかった。
岡元経理の部下たちはすぐに彼女を見つけ出し、連れ戻すだろう。彼女が自ら署名した契約は、彼女をゴールデンエンタメに、そして岡元経理の側に縛り付けていた。
時枝秋は彼女の絶望を目撃するためにやって来たのだ。
前世で、自分が最も絶望していた時に、木村雨音が傍らに立って冷ややかに嘲笑っていたように。
前世で岡元経理と契約を結んだのは時枝秋だった。傷跡のおかげで、接待や枕営業は免れたものの、岡元経理に搾取され、様々な創作物を提供し、マスクをつけたまま数々の広告に出演させられた。
彼女が耐え難い思いをしていた時、まさに木村雨音が自ら追い打ちをかけに来たのだ。
彼女を見つけると、木村雨音は泣きながら叫んだ。「時枝秋!時枝秋!助けて!岡元経理に酷い目に遭わされたの!私たちが親友だった頃のことを思い出して、お願い、助けて!」
「親友?」時枝秋は唇の端を上げた。「親友なら、友達を陥れて話題を作ったり、曲を盗んだり、立場を奪ったり、さらには、ゴールデンエンタメを紹介したりするの?」
木村雨音は思い出した。あの時、本来岡元経理は時枝秋と契約するはずだった。
しかし彼女は岡元経理が提示した条件に目がくらみ、最終的に自分が契約を結んでしまった。そしてその時から、すべてが変わってしまった。
もはや何一つ彼女の期待通りにはならず、すべてが逆方向に進んでいった。
「あなたね!時枝秋、あなたが私を岡元経理と契約させるように仕組んだのね。わざと醜い姿を見せて、それで彼は私を選んだのよ!」木村雨音はついに理解した。あの時から、彼女は時枝秋の罠に落ちていたのだ。